※V基準で双子主。
ポケモンSV。本編後。
アオイ(女主人公)、ハルト(男主人公)、ネモ、ボタン、ペパー。
物語は終わらない
いつかこんな日が来ることは分かっていた。ポケモンバトルをするときに邪魔にならないように結んでいた髪を解く。アカデミーを卒業してからも、トップの下でチャンピオン業を全うしていた。そんなある日両親から告げられたのは、今の家からの引っ越しとチャンピオンとしてのリーグの運営からは手を引くこと。今まで使っていた髪留め用のヘアゴムは、幼い頃から大切にしている小物入れに入れた。人生で一番大事な宝物に鍵をかける。
姉とお揃いのロングヘア。姉とお揃いは嫌いではないし(むしろ好き)、アカデミーに入る前は髪を下ろしていることのほうが多かった。近頃あまり着ないような、動きにくい服を着る機会もグンと増える。ヒールでコケたらかっこ悪いな……。間違いなく相手もいい思いはしないだろうし、今度ヒールで歩く練習でもしよう。結局ボールの投擲は上達しなかった。その点アオイやハルトは、ポケモンの背後からのボール投げもさらっとマスターして順調に図鑑を埋めていった。無念。
「……ネモ、笑って」
自分で自分を奮い立てる。ここまでわたしのやりたいことを許してくれたことに感謝せねば。でもみんなにどう伝えればいいのか最後まで分からなくて、結局何も言えなかった。パルデア地方を出る訳ではない。ただアオイやハルトと出会ったあの場所からハッコウシティに引っ越すだけだ。それを機にチャンピオンという肩書きは過去の栄光になる。話のネタにはなるだろう。
*
「「「ネモ!」」」
「え、幻聴!? 幻覚!? なんの技!?」
パーモットたちとのんびり暮らす。わたしへの配慮からなのか、両親からの圧なのか、ここに引っ越してからトップからの連絡も来ない。町外れの広場でポケモンたちを出してピクニックをしていた。見慣れた姿、聞き慣れた声に思考が停止する。あぁ、きっとボタンの仕業だ。ちょっとだけ髪の毛を下ろして雰囲気を変えてみたのにな。わたしのポケモンを確認するまでもなく、みんなすぐにわたしだと見抜かれた。パーモットは嬉しそうに友に駆け寄る。人間の勝手で寂しい思いをさせていたのは覚悟のうえだったけれど、心が痛む。
「急にいなくなって……まったく、生徒会長だったのにここにきて困ったちゃんかよ」
「いやー、ネモとバトル出来ないの結構キツいっす」
「ネモー、ハル暴走して大変だったんよぉ、なんとかしてー」
「……うちの力、みくびんな?」
三者三様――否、四者四様(?)の反応を示す。ハルトと同じぐらいに戦うことが好きなラウドボーンがボールから出てきた。同期であるウェーニバルと何かを話している。心なしか楽しそうだ。ラウドボーンの鳴き声に合わせてウェーニバルが踊り出す。パーモットも、いつの間にかボールから出てきたミライドンも踊りに加わった。もはやちょっとした祭りだ。そんな軽やかなBGMは、重苦しくなるはずの空気を浄化する。
「えーっと、その、」
わたしが何を話そうか逡巡していると、アオイがわたしの手を掴む。出会ったときひと回り低かった背は、いつの間にかわたしと同じ高さになっていた。ハルトに関してはわたしたちを追い越して、ペパーにもあと少しで追いつきそうだ。ハルトが親指を立てた。後悔のないよう、全力で駆け抜けたつもりだった。仲間たちと学業をともにすることが出来て満足するつもりだった。
「……、いいの?」
「「うん!」」
「おう!」
「……おけ」
わたしの親友(たからもの)は世界中の誰に対しても自慢出来る最高の友人だ。アオイがわたしに抱きつく。わたしはよろけながらも、アオイをしっかりと受けとめた。一日三食きちんと食べているはずなのに、なんだかお腹が空いてきちゃった。ペパーの作ったサンドイッチをみんなで食べたい。