※V基準で双子主。
ポケモンSV。本編後。
ネモ、ペパー。
無い物ねだり
「……あれ?」
目を開けるとそこは無機質な天井が見えた。一瞬病院かと思ったが、すぐに保健室であることに気がつき安堵する。おでこに置いてあるタオルが気持ちいい。少し視線を動かすと、ペパーが椅子に座っていた。起き上がろうとするとペパーが止める。年上の男性をねじ伏せるような体力はもっていない。仕方なくベッドに横になった。
「突然倒れて困ったちゃんかよ」
「ペパー……、あ、バトル!!」
倒れる前、わたしはペパーとバトルしていた。彼のなかで何かあったようで、自らバトルしたいと申し出た。わたしはそれが嬉しくて、喜んでバトルコートに向かった。本人曰く即席と言いつつペパーのパーティはバランスがいいし、技のタイミングやチョイスもセンスを感じる。ペパーが本気を出せばジム巡りなんてすぐ突破出来てしまうだろう。なかでも昔からの相棒であるマイティフは強敵だった。
「とりあえず今日はおやすみちゃんだ」
「……大丈夫だと思ったのになー」
「むちゃくちゃ焦ったんだからな!! いいから休め!!」
昨日から微熱があり、体が少しだるかった。だから基本的には大人しく過ごそうと思っていた。本当だよ? ……ペパーからポケモンバトルを申し込まれたことが嬉しくて嬉しくてつい行動に移してしまったけれど。まさかこんなところで倒れるとは。バトルが白黒着いただけで良かった。ペパーの瞳は揺れていた。心のなかに芽生える罪悪感。エリアゼロで知った真実をペパーは頑張って受け入れようとしている。きっと薄々は感じ取っていたのだろう。でも、一縷の望みすら壊された。
ペパーが心配してくれているという事実が嬉しくて、申し訳ない。わたしもペパーの仲間のひとりになっている。スパイス探しに付き合ったアオイやハルトだけでなく、エリアゼロを一緒に探索したわたしやボタンにもほかの人よりも心を開いてくれている、と思いたい。
エリアゼロに招集された生徒たちはわたし含めてどこか《変わって》いる。ハルトやアオイをきっかけにお互い知り合って、特異な形のピースが面白いほどハマった。ハルトはチャンピオンまで駆け上がってきたし、アオイはミライドンとすぐに仲良くなり、ハルトの良き理解者でもあった。マイティフを助けるためにパルデアを駆け巡っていたからなのか、ペパーって案外体力あるんだよね……。
――スパイス巡りって体力つくのかな。追試になったハルトをアオイやボタンと待っているときにふと漏らしたらアオイにやんわり制止され、ボタンに直球で止められた。
「……バトルは逃げねーからよ」
「ありがと」
宝物が見つかり、新しい仲間に巡り会えてわたしは幸せ者だ。三日三晩バトルをしてくれそうなのはハルトぐらいしかいないけれど、ペパーもアオイもボタンもわたしとのバトルを楽しんでくれる。いつの間にかバトルをしてくれなくなった生徒の影がわたしの心に住んでいた。スタートラインはみんなと変わらないはずなのに、いつの間にか独りになっていた。だから少し無理をしてでも大好きなバトルをしてしまう。そんなことをしなくても彼らは待ってくれるのに。わたしも変わらないと。