(シュナさん解像度高めようワンドロ)
※シュナイダー生存if。
※病みクルック。
アニメ版ブルードラゴン。一期と二期の間。
クルック、シュナイダー。
もしもの話
*クルック
血の海に立っているのはあたしだけ。みんなは地面に伏せていた。名前を呼んでも起きる気配がない。ふと両手を見ると、赤黒く染まっていた。あたしのしたことは知っている。〈誰か〉に対してあたしはそうしてきたのだ。
「いやっ!」
悪夢で飛び起きる。あたしは深呼吸をして、リビングに向かった。アンドロポフとシュナイダーさんの療養のためにのどかな村に来てしばらく経つ。村の人たちに受け入れてもらえ、あたしは子供たちのお世話もするようになった。今のあたしが出来ることはそれぐらいしかない。
シュウのように立ち向かう勇気はない。フェニックスと一緒にその勇気も失ってしまった。元々知識のある医療や機械関係を活かして、誰かの傷を癒すことが出来るなら。それがあたしなりの精一杯。
「やはりお前か」
「……シュナイダーさん」
――たとえ、その先に待つのが戦だったとしても。
*シュナイダー
アンドロポフとともに生死を彷徨った私たちは奇跡的に生き残った。しかし怪我の状態が酷く、今はこうして敵の小娘の世話になっている。今の私の姿をロギ様にさらすのことは出来ない。一応影は出せるが体の負担があまりにも大きい。車椅子移動が中心の我々がロギ様のお役に立てるとは思えない。
リハビリがてら松葉杖で起きているであろう小娘のところに行く。いつでもロギ様の下に戻る準備はしておかねば。そのための訓練は欠かさない。彼女は相当思い詰めているようで、私が近くにいることに気がついていない。
「やはりお前か」
「……シュナイダーさん」
小娘は曖昧な表情を浮かべる。泣くか笑うかどっちかにしろ。……彼女がそんな表情を見せるのは夜だけだ。普段は寝ている時間に起きていて、何かを考え込んでいる。私は椅子に座った。向かい合う図は彼女が参っているのも相まって、あのときのよう。
おかしな話だ。かつて捕虜にもした敵に看病され、こうして一緒に住んでいる。数年後には再び敵対しているはずなのに。あの小僧なんて私たちのいる前でロギ様に逆らう宣言を堂々としていた。怪我の回復具合によっては問答無用で処するつもりだったが影を出すことも出来ず、小僧を睨みつける。
「お前は私たちを攻撃しないんだな」
今なら小娘のほうが有利だ。いくら影使いの男二人が相手とはいえ、体の調子が万全ではない。彼女の機転の良さなら状況を覆せるはずだ。……そもそもアンドロポフが小娘に対して攻撃出来るとは思えないが。そうしたらますます私が不利になる。
彼女は私の言わんとしていることを理解している。この問答をするのも初めてではない。終着点のない無意味な会話だ。
「それを言うならあなただって。そもそもあたしにそんな権利はありませんから」
「そうだな。ロギ様の計画に支障をきたした果てに闇は解放された」
「えぇ。あたしがもう少し立ち止まっていたら、被害を抑えられたのかなって……。ごめんなさい、今更ですよね」
「――だからと言って私もお前を裁く権利はない。お前が戦場に立つには早すぎた」
アンドロポフが惚れてしまうのも頷ける。彼は戦い以外のことをあまりに知らない子供なのだ。強さがすべて、そんな戦場が当たり前だった。私にはロギ様がいる。こうして生きている以上、ロギ様のお役に立てるようになるまで回復するのが私の望みだ。
しかし、今は彼女に手を差し伸べてやってもいいだろう。この事態を引き起こした一因でもあるが、一応世話になっている義理もある。ここからは今日初めて言う台詞だ。後にも先にも今ここでしか言わないつもりでいる。
「クルック、今だけは仲間だ」
「え……」
小娘――クルックは目を丸くさせる。私が名前を呼ぶことは想定外だったのだろう。私もアンドロポフのことを言えないかもしれない。小僧の誘いに逡巡する彼女は、行き場を失っていた。私の敵意も小僧の主張も否定することが出来ず、右往左往するだけの存在。
彼女は敵である前に、戦いで傷ついた人間にすぎない。今の私に影の能力も戦う意思もない女をなぶる気も起きない。