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BleuCiel(別館)

気の赴くままに

【ブルードラゴン】さようなら、こんにちは【SS】

※死ネタ(二期前にアンドロポフ死亡)。
※クルック闇落ち?
アニメ版ブルードラゴン。ifルート。
クルック視点。
クルック、シュウ。



 さようなら、こんにちは


 実際にあった出来事を夢で見ただけなのに、あいつの横顔がやけに眩しく見えたんだ。二度と戻らないあの日々は、あたしにとって大切な宝物。宝石と同等、それ以上の価値がある。前向きに捉えられるようになったのは、きっとアンドロポフがいてくれたから。旅をしていたときのことを直接話していないのに、赦されたような気がした。……分かっている、あたしの都合のいい錯覚だ。

「(馬鹿みたい)」

 それももうおしまい。あたしは自分の手でその宝物を壊す。彼がいなくなって、宝物の手入れの仕方が分からなくなった。手に余るようになった宝物は、あたしに重くのしかかる。勤めていた病院に最後の挨拶をして、ロギさんのところへ向かう。……アンドロポフのことも、伝えないと。日に日に弱っていく彼は、体調は思わしくないだろうにそれでも幸せそうに見えた。そんな彼と一緒にいると、あたしの荒んだ心も癒されていく。そんな彼の唯一の心残りは、ロギさんのこと。でも、遺言も何もない。門で別れたあの日から、覚悟は決まっていたのだろう。彼は軍人だ。そのあたりは心得ていてもおかしくはない。
 アンドロポフが運ばれてきたときには、生き残るだけでも奇跡に近い怪我を負っていた。彼もほかの負傷者に漏れず、外傷だけでなく体内も酷い有様だった。何度か手術もした。今のアンドロポフはシュナイダーさんと同じ場所で眠っている。あたしに出来る彼への餞。これからの行動は、あたしが勝手に起こすだけだ。誰かに頼まれた訳でもない。ほかの誰でもない、あたし自身のために。

 * * *

 世界で《何か》が起きている。あたしは見て見ぬふりをした。シュウたちから隠れながら、ロギさんの手伝いをする。情報屋を欺きつつ動いていたつもりだったけど、どこからか捕捉されていた。レジスタンスに白の旅団、それに謎の竜との交戦が続く。たくさんの人を巻き込んで。無力な人たちも巻き込まれているのだろう。あたしに追悼する資格はない。だってその人たちからしてみれば、あたしもこの泥沼の戦争を煽っている一因だろうから。いっそのこと敵と認識してくれればそれでいい。あの日からショートヘアで整えてきた髪の毛も、最近は切る余裕がなくて少しずつ伸びてきた。

「クルック……」
「抵抗しないと殺すわよ」

 シュウと対面する。紆余曲折を経て、お互いに《影》は復活した。ブルードラゴンと共に戦うシュウは、そう簡単に殺せない。あたしは銃を構える。あなたへの想いも、過去の記憶もすべてなかったことにするために。あのときのあたしたちは、ゾラの掌の上で転がされていたにすぎない。自分たちに考えて行動したつもりだったけれど、今考えたらゾラがうまくコントロールしていた節もある。最後の最後でシュウとブルードラゴンがちゃぶ台をひっくり返した。影使いとして覚醒してもあたしはやっぱり無力で、中途半端な覚悟しか持てない。なんとなく、シュウが遠い存在に思えた。
 フェニックスと再会出来たことは素直に嬉しい。ただ、試練なんてあたしには関係ない。勝手に決められても困る。……正確に言うと、今のあたしに乗り越える勇気がなかった。あたしの現状に対してフェニックスは何も言わない。フェニックスはいつでも寄り添ってくれた。あたしはフェニックスの前だけで甘えていた。銃とフェニックスとの合わせ技でも、なかなかシュウとブルードラゴンに風穴を空けることは出来ない。あたしたちはブルードラゴンの攻撃を防ぐことが精一杯だった。銃も攻撃の余波で手元から離れている。大の字になって天を仰ぐ。煮るなり焼くなり自由にして。

「なんで影を抑えるようにしてなかったんだ?」
「…………」
「お前、わざとだろ」
「シュウには関係ない」
「いいや、関係あるね」

 ……シュウは変わっていない。あいつだっていろいろなものを見てきたはずなのに。アンドロポフを看取ったときから、あたしの時計は止まった。シュウはシュウのまま時間が進んでいる。一瞬不自然な光の反射が見えた。あたしはシュウを引き連れてその場を去る。フェニックスがいてくれて良かった。保険をかけている人がいたのだろう。それは、あたしとシュウの関係を知っている者がいたら誰もが危惧することだ。でも、シュウが闇討ちのような形で怪我を――万が一命を落としてしまうようなことを、あたしは望んでいない。強い心が持てないのは、今も昔も変わらない。

「良かった……」

 咄嗟にテレポートした先は、封印の地。ここなら並大抵の人は、すぐには来れないだろう。今でも好き好んで訪れる人はいない。それなりに見晴らしも良いし、また邪魔が入れば移動すればいい。裏切ってしまう形になった以上、ロギさんのところへはもう戻れない。シュウがあたしを見据える。その視線をそらすことが出来なかった。しばらく離れていたとしても、伊達に幼馴染をしていない。フェニックスには一応まだいてもらって、念には念を入れる。

「オレがクルックを誘いに病院に行ったときには、もういなかった」
「急に何?」
「――クルックが生きてて良かった」

 シュウは嘘をついていない。あたしは幼馴染である前に、シュウのこと殺そうとしていた人間なのに。今は敵同士なのに。シュウ、今凄く無防備なの分かってる? 銃はなくても殺すことは出来るのよ? そんなあたしの心境なぞお構いなしに、シュウは話し続ける。ブルードラゴンもどこかリラックスしているように見える。今のうちに仕掛ければいいのに、一歩が踏み出せない。

「アンドロポフのことも聞いて、不安になったんだ。あのときレジスタンスのことでいっぱいになってて、お前に気を配れなかった。会ってみてやっと分かったよ。アンドロポフが助けてくれたんだな」

 シュウはときどきそうやって核心をつく。彼は屈託のない笑みを浮かべる。記憶にあるシュウの笑顔と遜色ない。手前味噌じゃなくて、本心からの言葉。責められると思っていた。レジスタンスに誘われると思っていた。アンドロポフが繋いでくれた命で、自ら壊した宝物が修復される。それは完全に同じ形ではない。でも、同じ輝きを放っている。――あぁ、敵とか味方とか関係なく、シュウに会いたかったんだ。幼い頃からずっと一緒にいた家族同然の存在。臆病なあたしは何かと理由を付けて避けていた。きっとアンドロポフにも見抜かれていた。彼は最期まであたしのことを考えてくれていた。
 シュウはブルードラゴンを引っ込めようとしない。途中で彼の話を折ることはせず、おとなしくしていた。ブルードラゴンは挑戦的な笑みを浮かべている。まだまだ戦う気だ。シュウもそんなブルードラゴンを落ち着かせようとしない。むしろシュウもその気だ。ここで逃げたら、アンドロポフに合わせる顔がない。あたしは深呼吸をする。アンドロポフが死んでから止まっていた秒針が動き始める。

「スッキリしたところで続きしようぜ!」
『待ちくたびれたぜ』

 シュウとあたし、一度仕掛けた以上白黒はっきりとつける。銃はテレポート前の場所に置いてきちゃった。シュウとブルードラゴンのコンビが有利のような気がするけれど、フェニックスだって負けてないんだから。あたしの作戦がどこまで通用するか分からない。あいつらに正面突破は通用しないだろうし、実に考察しがいのある相手だ。詰め将棋をしているようでワクワクする。まだあたしにも、こんな感情残っていたんだ。

「(アンドロポフ、あなたならどうする?)」

 アンドロポフもこういうの考えること好きでしょう? いつかあなたなりの答えも聞きたい。下手したら死ぬかもしれないのに、あたしの心は嘘みたいに軽い。幼馴染で、きっと初恋の相手で、太陽のような存在に対して今だけはあたしも同じ土俵に立っている。あいつも世界のことはいったん頭の片隅に置いているのだろう、多分。だって、あいつもまだまだ子供だ。心なしかシュウが幼く見えた。

『    』
「っ!!」

 風があたしの頬を撫でる。そのときに、アンドロポフの声が聞こえた気がした。そうね、一緒に戦ってくれると心強い。援護してくれなくていい、そばにいてくれるだけで大きな力になる。たとえあたしの思い込みだったとしても、信じる者は救われる……なんてね。シュウと目が合う。言葉はなくとも、それが合図となる。彼の元に逝くための戦いではなく、今までの空白を埋めるための戦い。


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