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BleuCiel(別館)

気の赴くままに

【ブルードラゴン】かさぶた【SS】

続きものの設定。
アニメ版ブルードラゴン。二期後。
ロギ、クルック、アンドロポフ。
ImageSong:『ALONES』
♪:Aqua Timez




 かさぶた


 上位生命体が地上から姿を消して、しばらく経った。ロギはシュナイダーが殉職したとされる場所に訪れる。アンドロポフも共にしていたが、飛行艇から見えた人影を確認してしばらく待機することにした。その人影もといクルックは黒のワンピースを身にまとう。旅をしていた頃の桃色のワンピースと似たような型だが、黒を基調としたレースなどの装飾があしらわれている。
 ロギを見たクルックはそっとお辞儀をした。彼は既に供えられた花束を視界に入れる。彼女一人にしては量が多い。それもそのはず、シュウたちの分も含まれていた。一時間ほど前に、ゾラと共に旅をしたメンバーは封印の地を訪れる。シュウたちは各々の居場所に戻り、クルックだけが残った。

「こんにちは。ロギさんお一人ですか?」
「……あぁ」

 ロギは嘘をつく。少し間が空いた彼の回答に対して、クルックは深く追求しない。

「彼らも来たのか」
「はい。でもあたしたちが来たときには、もう供えてありましたよ」
「物好きもいるものだ」

 先客はコンラッドだった。彼はジブラル国関係者の代表として、ロギと鉢合わせにならないようなタイミングで花を供えた。シュナイダーの墓標は、すでに花束で彩られている。ゾラの場合、シュナイダーのような目印すらない。何かを供えることは出来ず、目を閉じさすらいの女剣士を偲ぶのみだ。
 クルックは上目遣いでロギに問う。叱られるのが分かっていながらも話をするときの子供のようで、普段の彼女からはあまり想像出来ない姿だ。

「……ロギさん、つまらないこと言ってもいいですか?」
「なんだ?」

 ロギは言葉少なめに返事をする。彼にとっての優しさだった。クルックは心情を吐露する。後悔にまみれた行為の数々を。

「あたし、シュナイダーさんに花を手向ける資格なんてあるのかなって。ロギさんの意見も反論するだけの証拠がないままにゾラのところに行って、結果《あぁ》なって。テレポートでもなんでも使って二人の様子を見に行けば、アンドロポフもシュナイダーさんもロギさんの部下のままでいられたかもしれない」
「――優しいんだな」
「……ッ! どうして……ロギさんまで……ッ」

 それはクルックにとって聞きたくない言葉。かつてゾラに言われた、彼女の評価だった。言葉を詰まらせる彼女に、ロギは手を出すことが出来なかった。彼が触れることによって、彼女が壊れてしまうのではないかと。彼としては言葉を選んだつもりだった。ゾラがクルックに対して似たような言葉をかけていたことは想定外だ。

「……でも、何も出来なかった」

 クルックが絞り出すように呟き、ゆっくりと顔を上げた。彼女の笑みが痛々しい。ロギは言葉を失う。彼は割り切る術を持ち合わせていた。それは日々を過ごした環境と、先の未来を見据えていたから。道中のすべてを抱えてしまっては、自分自身の体力がなくなってしまう。
 彼女は封印の地を去る。最初の問いに対し、彼が嘘をついているのは分かっていた。彼女と同棲しているアンドロポフはロギのところに行くと言っていた。ここにロギ一人で来るとは思えない。二人を気遣って、単身で村に戻ることにした。もともと彼女の用事は済んでいる。一人でいたのは、心のどこかでロギたちを待っていたから。
 彼女が去ったのを確認して、アンドロポフはロギと合流する。無線の通信機で会話を聞いていた。彼女が何も出来ないと嘆いていた彼女に対しての評価は、少なくとも強さがすべてだったアンドロポフの心を動かす。
 彼女は何も分からぬまま戦場に赴き、現実を見てしまった。無防備な心に大きな傷を負い、今もその傷はふさがっていない。

「……今度はお前が彼女を守ってやれ」
「分かっています」
「(私が出来なかった分まで)」

 ロギは決意を新たにする。これからも彼の手のひらからこぼれ落ちる存在は出てくるのだろう。それでも、彼は歩みを止めない。彼なりの弔いであり、贖罪でもある。アンドロポフは彼なりにクルックを支える方法を日々模索していた。彼女の幼馴染のように接することは出来ない。
 彼女にゾラへの不信感を植え付け、それでも仲間を信じるクルックに対してアンドロポフは鍵を渡す。そして、事態はゾラにとって想定通りの、シュウたちにとっては最悪の結果を迎えた。先に真実を聞かされていたクルックとゾラを信じ続けるシュウとでは意見の違いが出る。それは一緒に過ごしていくなかで、初めての深い溝だった。
 ロギは心のどこかでクルックとシュウのことを、ほんのわずかだがゾラと自分自身に重ね合わせていた。ロギがアンドロポフに託したのは、自分たちでは叶えられなかった未来。

「わざわざ空けてくれてたんですね」

 墓標の中心にある花束の量は少ない。周囲を彩るように置いている。中心に色を加えるのは、シュナイダーと関わりが深かった者の役割。ロギとアンドロポフは花束を供えた。シュナイダーが命を懸けて守り抜いたものは、今もなお生き続けている。

 ――そんな、戒めと追悼の日の出来事。


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