原作(ゲーム版)ロックマンエグゼ5。
メイル視点。
メイル、ロックマン(彩斗)。
面影
「…………」
ロールたちが連れ去られて数日が経った。本当に一人きりになった家は無駄に広く感じる。抜けたところのあるプログラムくんも可愛い。けれど、やっぱりロールが恋しい。ネットナビを盗まれたのはわたしだけじゃない。だから弱音は吐いても、まだ大丈夫なフリをしなきゃ。
「おばさまが、わたしを?」
熱斗からのメールが来た。夜ご飯のお誘いだった。熱斗は熱斗でおじさまを誘拐されている。それなのにまた何か大きな事件に巻き込まれている。ネットナビのいないわたしはただ見守ることしか出来ない。
「どうしよう……」
今のわたしが光家にお邪魔しても良いのか。普段ならすぐに返事出来るのに。ああでもないこうでもないと文を考えていると、PETに誰かがやって来た。今こうして来ることが出来るのは、ほぼ一人しかいない。
『メイルちゃん、熱斗君のメール見てくれた?』
「わざわざ確認しに来なくたって」
『ちゃんと寝てる?』
「っ……」
あぁ、今は《彩斗お兄さん》としてわたしに話しかけているんだ。わたしたちが物心着く前に天国に旅立った、熱斗の双子のお兄さん。おじさまからロックマンの秘密を聞かされたときにはただ驚くしかなかった。
「大丈夫」
最近睡眠薬が欠かせないけれど、まだいつも通り生活出来るから。彩斗お兄さんに見え見えの嘘は通用しない。でも本当に大丈夫だから。だからお願い、これ以上わたしを見ないで。
『…………』
彩斗お兄さんは何も言わない。わたしは目を伏せる。
「……ロールがいないと、すぐ目が覚めて、それで……」
『前にロールちゃんが心配してた。何かの拍子にデリートされたらメイルちゃん大丈夫かなって』
「――そんなの、認めない……!」
最悪の展開が脳裏を過ぎる。何度も思い浮かんでは、必死に否定していた。心臓の音がうるさい。最悪の、でもなくはない可能性。人間と同じように、ネットナビも完璧ではない。デリートされる可能性は常日頃からある。
『……ボクにダークチップが埋め込まれたとき、遠くからロールちゃんの声が聞こえた。だからきっと大丈夫。変なこと言ってごめんね?』
「彩斗お兄さんは謝らないで。わたし、強くならなくちゃ」
どこか暗い表情を浮かべていた熱斗にかけた言葉は、自分自身に向けてへの言葉でもあった。わたしらしく、それが今出来る最善策。それなのに、わたしはいつものわたしに戻れない。寝ると悪夢にうなされ、起きているとロールのことが気になって仕方ない。
『メイルちゃんだってぼくたちの大切な人の一人なんだから。だから、そんなに抱え込まないで』
「でも……でも……」
『苦しかったら泣いて良いんだよ』
彩斗お兄さんの幻影が見える。わたしたちと同じように成長していたら、わたしは彩斗お兄さんを兄のように慕っていたのだろうか。熱斗の双子のお兄さん。わたしと彩斗お兄さん、どっちが先に産まれたのだろう。優しい声に背中を押され、わたしは涙を流した。