忍たま乱太郎。
SS(掌編)まとめ。随時更新。
(現代パラレル,つどい設定有/きり丸) 20241208
きり丸は新聞配達のアルバイトをしていた。休憩がてら自転車から降りてひと息つく。赤く染まった空を忌々しげに見上げた。
「(……ただの夢なのに)」
その夢を彼は何度も見て、はっきりと記憶している。舞台は現代よりもずっと昔、ささやかに暮らしていた家族が炎に飲み込まれる夢。
彼の金銭事情ならば、学生である彼が無理にアルバイトをする必要はない。小学生の頃はさすがに親に反対されたので、家のなかでできることをしていた。友人や兄と遊ぶか、親の手伝いをするか。
手伝いの代わりに勉強は少しおざなりになりがちだったので、兄の手を借りて涙目になりながら宿題をすることも多々ある。
働かざるもの食うべからず――誰かに教わった訳でもないのに、いつのまにか《それ》は癖として彼に染みついていた。
「もうひとっ走りしますか」
きり丸は気持ちをリセットして再び自転車を漕ぐ。この日は親友と遊ぶ約束をしていた。そのことを考えると、苦手な赤い空も大切な景色に変わる。
(成長/きり丸) 20241208
「(昔に戻れたら……なーんて思いもあるけど)」
きり丸の足元には気絶した敵が転がっている。万が一にも目が覚めてもいいように手足は縄でくくった。
上級生にもなると実戦の機会も増える。彼らは箱庭から巣立つ準備を着々と進めていた。
「早く終わらせて帰るぞ~」
彼は周囲に人がいないことを確認してから背伸びをした。気絶している敵を依頼主に引き渡したら彼の課題は終わる。
は組のみんなと課題をこなす機会もずいぶんと減った。代わりに単独行動やくのたまとの共同作業は少しずつ増えていく。
くのたまに対しては相変わらずいいようにやられることも多いが、彼女たちもさすがに時と場合は弁えている。
年齢が上がるにつれて、そういう場所へと駆り出されることも増えていくのだ。くのたまとの駆け引きが起こるのは、すなわち安全な場所であるという証拠でもある。
up (※死ネタ※/成長/乱きりしん) 20250101
「お前らで……良かった……」
きり丸の最期はとても穏やかだった。任務の途中だというのに、まるで生涯をまっとうしたかのような表情に文句を言いたくなる。当の本人は亡骸しかないから、徒労でしかないが。
乱太郎はきり丸の瞳を閉じて、彼のトレードマークでもあるスカーフと乱太郎としんベヱが持ち運べる範囲の武器を拝借する。
「乱太郎」
「しんベヱ、今はここを離れよう」
「分かった」
二人は手先が器用な級友仕込みのおまじないをしてからこの場を去る。きり丸曰く追手はすべて排除したらしいが、援軍が来るかもしれない。最悪の事態を避けるためにできる限りの処置はした。
「(きりちゃんはずるいや)」
「(シゲ、ユキちゃん、トモミちゃんのことをお願い)」
敵と遭遇することもなく、主にかつてのは組が使っている拠点のひとつに戻った。彼ら以外には誰もいない。
二人は用具の手入れをしながら心を落ち着かせる。乱太郎が傷の手当をして、しんベヱは念のためにあたりの気配を探る。静かな夜だった。