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気の赴くままに

【ポケモンZA】SS(掌編)集

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【ポケモンZA】SS(掌編)集

ポケモンZA。基本的に♀主人公(セイカ)♂ライバル(ガイ)軸。別軸でキョウタウの世界線有。
ガイセイ多め。
SS(掌編)まとめ。随時更新。



up (ガイセイ) 20260517


 どこまでも他人を優先してしまうあなたをなんとかしてわたしのテリトリーに閉じ込めたかった、なんて言ったらどんな顔をする?

「(ふふ、ガイったらよっぽど疲れてるんだ)」
 わたしが近づいても起きる気配がない。このまま、軽やかに跳ねる足を切ってしまえばずっとここにいてくれるのだろうか。
「なんてね」
 それはガイの心を殺してしまうようなものだ。でも、
「隙を見せるガイが悪い」
「……セイカ?」

 ――今のオマエ、最高に悪い顔してる。
 ――ガイだって。



up (ガイセイ) 20260517


「アブソル、メガ進化!」
 メガ進化が解禁されたガイとの初めてのバトルは、接戦の末にセイカの勝利だった。チャオブーに対しての有効打を与えられずに、早めにメガ進化を切ったもののアブソルが耐える。メガ進化をするガイの表情に目を奪われたのは、彼女の心の内に秘める案件だった。
「ルカリオ、お疲れ様」
「セイカも凄いな。あっという間にメガ進化を使いこなすなんて」
「ううん、凄いのはルカリオとアブソルだよ」
 外ではバトルゾーンが展開されているが、セイカとガイはホテルZのロビーにいた。メガ進化をしたアブソルを鎮めたセイカは、ともに戦ったルカリオを労わる。ガイが夕食を作っているあいだに用意したルカリオ用のポケモンフーズを、功労者ならぬ功労ポケモンは美味しそうに食す。
 ガイは満足そうにその様子を眺めていた。人間でもポケモンでも、自分が手を加えた物を美味しそうに食べる姿は彼の心を満たす。彼の母が入院する前はガイの作ったご飯を残すこともあった。その頻度が多くなり、入院してからは完食することが珍しいことになる。
 食べてくれるなら大丈夫、彼は無自覚ながらも食卓を囲むことで無事を確認していた。隙あらばクロワッサンカレーというカロリーの塊を推しているが、体調の悪い人には胃に優しい物を作ることだってできる。
「――巻き込んでごめんな」
「ガイ?」
 普段の声音と違うガイに吃驚したセイカは思わず彼のほうを見る。彼は一瞬だけ青色の目を曇らせて、苦笑した。短くも濃い時間を過ごしたなかで、セイカはガイの評価を改めていた。おしゃべりな明るい少年かと思っていたが、意外と自分のことを話したがらない。過去のことになるとなおさらだ。
 デウロやピュールのことは少しずつ分かってきたつもりなのに、ガイのことは知っているようで知らない。セイカとデウロがカフェで女子トークをしているときに、ピュールの話になり、ガイの話にもなった。
『ガイってひとりで突っ走っちゃうところがあるから心配なんだよねえ』
「今回みたいなことがないようにするから、セイカは観光してていいんだぜ」
「今回だって今までだってわたしがやりたいからやってるの。親に連絡するときには内容を選んでるけど。ブティックだってカフェだってちゃんと行ってるんだから。今度お気に入りのコーデ見せてあげる」
「さすがだな。そうだ。これ、アブソル用に作ってみたんだ。……今度、穴場のカフェにでも行くか?」
 ガイはセイカにアブソル用のポケモンフーズを手渡す。セイカはモンスターボールでおとなしくしていたアブソルを出した。メガ進化のエネルギーは戦闘で使い切り、穏やかな表情でセイカを見る。セイカの手に持っているポケモンフーズの匂いを嗅ぐ。期待の眼差しで彼女を見つめた。
「ガイ、ありがとう。アブソル、今日は特別ね。わたしも料理の勉強しようかなー」
 ポケモンバトルでは急成長を遂げているセイカだが、手先は不器用だった。料理も裁縫もMZ団のそれぞれのプロ(ガイ、ピュール)から何かあれば自分がすると宣言されている。料理はお手伝いや火を使わない料理ならなんとかいけるが、危なっかしいのかガイが台所に立つと止められた。
「シャァ」
 ポケモンフーズを手のひらに乗せてアブソルの前に出す。アブソルは最初は慎重に、そして味わって食した。手のひらにあるポケモンフーズがなくなると手のひらを舐めておかわりを要求する。結局、ガイが用意した分は完食した。アブソルが食べている間、彼は温柔な表情を浮かべる。
「で、カフェなんだけどクエーサー社に行った後とかはどう?」
「いいぜ!」
 二人はグータッチをする。明日のこともあるので二人も部屋に戻ることにした。彼女は早めに起きて、クローゼットを開ける。MZ団であるブルゾンは外せないが、ワイドパンツからキュロットに着替え、オフショルダーは装飾の付いた物に変えた。セイカがロビーに向かうと、ほかの面々はすでに集まっていた。
「デート!?」
「へアッ!?」
 デウロの火の玉ストレートな発言に、ポケモンのような鳴き声になったセイカ。ガイが真面目に今日の予定を告げるものだから、セイカもすぐにニンゲンに戻る。普段は静観するピュールが珍しく会話にがっつりと割り込む。
「ガイ、ついでだからキミも着替えてみては? 彼女のように一部を変えてみるのも手です」
「オレぇ!?」
 まさかの飛び火にガイは声を上げる。セイカは彼の両手を握ってじーっと見つめた。デウロもピュールの意見に賛同して、目を輝かせている。ガイはお洒落には無頓着だった。せっかくのルックスが泣いてしまう、デウロも前々から思っていたが強制するもの違うと思い本人に伝えずに今に至る。
「クエーサー社に行くの午後からでしょ? お金がないなら、わたしもちょっとぐらい出すから」
「それぐらいならある! ってマジか……」
 慌ただしい朝食の時間を終えて、AZとフラエッテにひと言伝えてから四人は町に向かう。孫を見るような、優しい眼差しで彼らを見送った。フラエッテと二人で静かな余生を過ごすはずだったAZが、マチエールを通じて行き倒れていたガイを引き取る。そのガイが行き場を失っていた少年少女、そして観光客をホテルZに導いた。
 ガイはAZに恩を返したがっている。AZとしては、ガイが、そしてMZ団がホテルZを帰る場所としていることが何よりの恩返しだ。それと同時に、長くはないであろう余生を悔やむ。近しい人を喪った傷は深くて大きい。フラエッテで痛恨したAZはガイを心配していた。
「(ガイ、私がいなくなってもみんながいる。私のようになってはくれるな)」
「キュル!」
 フラエッテが自分の胸を叩く。心強いパートナーだ。大罪を犯したAZが自身の罪を自覚するまで距離を置き、彼を赦してからはそばで最愛のパートナーを支えている。



up (ガイセイ) 20260517


 セイカは定期的に地元に帰るけれど、すぐに戻ってくる。オレは仕事があってセイカを見送れないこともあった。……遠くなっていくセイカの背中を、いつものオレで見送ることがだんだんとつらくなってくる。仕事を言い訳にして見送らないことも増えてきた。
「来週帰るね」
 まるで街のカフェに出かけるかのように言い放つ彼女が恨めしい。しばらくは会社に箱詰め、彼女の言う来週は修羅場を迎えるだろう。貴重な休み、ホテルZでみんなのご飯を作ったり、昔のように街を駆け回って切り替えようとしていた。
 オレの部屋(201号室)にセイカがいることは珍しくない。必要な資料や書類を忘れたときには空きっぱなしの部屋の防犯意識を咎められながらもセイカが取ってきてくれることが多い。こうして彼女が帰省することを告げるのもなぜかオレの部屋――オレが帰ってくるときは、遅い時間になってしまうのでながら作業をしながらでも告げられるからと髪を下ろしてラフな格好の彼女が部屋にいる。
 クエーサー社からホテルZに戻る頃には夕食の時間はとうに過ぎた。昼にはMZ団のグループチャットに連絡を入れたので、三人の誰か……内容的にピュールが中心で作ったであろう料理がオレ用に分けられている。
「キュルルー!」
「ただいま。……ん、スマホロトム? チャット?」
「キュルル」
「セイカに連絡しろって? アイツ……起きてるか」
 セイカはオレらのなかで一番ロワイヤルを楽しんでいる。メッセージを送ると返事の代わりに年季の入ったエレベーターの音がした。オレは夜ご飯を食べて、セイカはオレが用意した紅茶を飲む。食器を洗ったら二人でオレの部屋に入った。
 以前より物が少なくなった――ように見えてダンボールに詰め込まれているものが多い部屋のベッド上にセイカは腰掛けている。オレは荷物を置いてスーツの上着をハンガーに掛けた。セイカが、遠くに行く。
「……そっか」
「ガイ、どうしたの? 二日酔い? ………ぇっ」
 セイカの言う通り二日酔いかもしれない。オレの顔見せも兼ねて他の企業と会食をしたときにアルコールを摂取した。量はそんなに飲んでないはずなのに。アルコールに飲まれたせいだ。気がついたらセイカの腕を掴んでベッドに押し倒していた。
「行かないでくれ」
「す、すぐに戻るから。ガイ、い、痛い……」
「すぐ? すぐっていつだ? 次の日か?」
 セイカは顔を歪ませた。そんな顔を見たオレはますます不安になって、彼女を強く拘束する。母さんもAZさんも一緒にいてくれるって言ったのに、手の届かないところへ行った。デウロやピュールも忙しくなったとはいえ、ここを拠点としてくれている。セイカは? いつか地元とここにいる比率が逆転する?
「キュル!!」
「フラエッテ……?」
 フラエッテの鋭い声と同時に花で頭をつつかれる。そういえばセイカと一緒にフラエッテも部屋に来たんだっけ。駄目だ。力が入らない。フラエッテ、オレに何かしたな? せっかくの休みだったのに。こうなったら部屋で引きこもって、ひたすら読書でもするか。
「……セイカ、も、」
 オレを置いていくのか。言葉は途中で止まる。



up (未来捏造ガイセイ) 20260517


 ――あなたがわたしを変えたの。だから責任を取ってね。

 ガイをワイルドゾーンまで連行したセイカは、複数の強力なオヤブン個体を相手に果敢に戦っていた。結果はセイカの圧勝。ガイは保身のためにポケモンを出していただけで、戦い自体には手を出していない。
「大丈夫、わたしはガイより先に死なない。わたしを信じて」
「ンなこと……」
「ワイルドゾーンを切り抜けたでしょ? しかもオヤブン個体の群れ」
 ワイルドゾーンから出て、人通りがまばらな場所に来た。セイカはガイを抱きしめる。彼女はあえて彼のトラウマに触れた。そうでもしないと、セイカの望む関係が手に入らないから。ひょんなことからセイカのガイへの想いが一方通行ではないことを知る。
『ごめん。セイカが死ぬところを見たくないんだ』
 両想いだと判明したうえで、ガイはセイカを振る。彼は諦めたように力なく笑う。普段のガイなら見せないような、弱々しい表情だった。
 セイカは都合良くオヤブン個体の群れが出たことに感謝する。社長見習いとしてクエーサー社にこもりがちなガイがホテルZに戻ってくる頻度は少ない。一歩間違えたらガイをさらに苦しめることになる。それでも、セイカは負ける気はしなかった。
「わたしだって、ガイが死ぬことろなんて見たくない」
 アンジュ戦ではセイカが生きてきたなかで一番肝が冷えた。ガイは思い出作りかのようにセイカにポケモンバトルを申し込み、既定路線だったかのようにフラエッテと一緒にセイカたちに背を向ける。
「お互いに納得のいく死に方ができるように探していこう?」
 * * *
 わたしの一世一代の賭けは大成功だ。ガイと喧嘩をすることもたくさんあったけれど、子供や孫にも恵まれて素晴らしい日々を過ごした。わたしはホテルZのオーナーとしてAZさんが遺してくれた居場所をフラエッテと一緒に守る。
 比較的早めにクエーサー社の社長を退いたガイも本格的に経営に加わって、今は子供に引継ぎをしている最中だった。フラエッテの可愛いお叱り(ちなみに子供や孫の前では〈はめつのひかり〉を撃っていない)もありながら、ノウハウを吸収していく。
 ガイが体調を崩すようになって、ついには動くこともままならなくなる。ホテルZは規模を縮小して営業を続けた。営業と言っても、親しい人しか泊めていないので宿泊施設として機能しているかは怪しい。ミアレシティに一軒家はある。でも、彼の希望でホテルZに帰ることとなった。
 ホテルZの一室、ホテルの関係者専用の部屋となっている部屋で彼は眠る。彼の最期は穏やかなものだった。子供や孫、わたし以外にもデウロやピュールも来てくれて、マチエールさん、ほかにもたくさんの人が来てくれた。〈MZ団〉と名乗っていた時期なんて数十年も前の話なのに、デウロやピュールといると童心に帰る。
 コルニさんとアンシャちゃんは彼が旅立って数時間後に到着した。彼女たちには彼女たちの生活がある。それでも当日に来てくれたことがありがたい。ここ数日はガイの意識はほぼないような状態で、その瞬間を待つだけだった。
「最期のミッション、ちゃんと遂行しようね」なんてデウロが言うから、わたしとピュールは口角を上げた。この歳になっても心が弾む。夫であり、戦友であり、リーダーであり、ガイとは不思議な関係だったと振り返る。
「ガイ、ちゃんと生きたからね」
 ガイがクエーサー社の社長だった時期に撤廃されたワイルドゾーンでの戦闘からずいぶんと生きてきた。あの頃のようにバトルはできないけれど、信頼するポケモンとはずっと一緒にいる。娘や孫を負かしたことも何度もあった。
「(これでもう怖くないでしょう?)」
 ガイの心の傷はきっと最期まで完治することはなかった。子供が産まれて、孫が産まれて、家族が増えるたびに内心では不安だったはずだ。もちろん、わたしだって大切な人を喪う恐怖はある。
 彼は母親を喪ったときに心の傷を消毒をできずに我武者羅に生き続けた。AZさんのときもわたしたちができることは限られていた。あの頃のミアレシティを顧みれば、病院に行く余裕なんてない。ミアレシティを愛していたガイならなおさらだ。
「(わたしが逝ったらたくさん褒めてもらおう)」
 だから待ってて。残りの人生も満喫して逝くから。彼の淹れた紅茶を堪能するためにも、土産話はいくつあってもいいはずだ。



(セイカ→ガイ) 20260411
 世界で一番頑張り屋なあなたへ


 わたしはなんとなくでミアレに旅行に来た旅人だ。だから昔のガイのことは知らない。人助けが趣味で、自分のことには無頓着で、しっかりしているようでどこかいい加減なところもある男の子、それがガイだ。
 AZさんが運営するホテルに流れ着いて、MZ団に入って、いつの間にかミアレに馴染んでいた。フワンテみたいにふわふわと旅をすることが趣味だったわたしが旅先で根を張ったのは初めてのことだ。
 わたしにはポケモンバトルの才能があったらしく、あれよあれよとトップランカーの仲間入りをする。ミアレシティをかけた戦いにはMZ団のみんなと、町の人たちと立ち向かった。
「ガイ、フラエッテ!!」
 わたしの運命を変えてくれた人は、ちゃんと戻ってきてくれた。それが何よりも嬉しい。駅で声をかけられたときから、一目惚れだった。
「セイカ」
「おかえり」
 わたしを呼ぶガイの声は、どんな豪華な報酬よりも心を満たしてくれる。



(両片想いガイセイ) 20260411


「ってて……」
 セイカはテリトリーに侵入されて怒っているポケモンから攻撃を喰らった。セイカのポケモンもいるが、わざわざ戦闘に持ち込むよりローリングして移動したほうが早いと考えた。テリトリーのなかに、どうしてもほしいアイテムがあるだけなのだ。
 擦り傷テリトリーから抜け出して消毒をした。沁みるが放置すると悪化する。
「良かった、動きやすい服にしてて」
 所々破けてしまった服は奇麗に洗ってからピュールにリメイクしてもらうことにする。彼は彼女を心配して小言を言うが、彼女はそれを受け流す。――リーダー(ガイ)が増えた。ピュールは彼女から渡された服をダメージ加工風に仕立て直しながら頭を抱える。そんなピュールの葛藤を、セイカは知らない。
 別の日、アスレチック名人ならぬ名ポケのケロマツとのアスレチック対決になったときは、スマホロトムの機能をフル活用して規定のタイムまでに到着するように何度も挑戦した。最初はまだ良かった。しかし、二つ目のステージになると彼女はつまづいた。
「(あーもう!)」
 大雑把な面が裏目に出た。何回もチャレンジしていると、さすがに体力が尽きてくる。セイカがしばらく休憩していると、いつものように人助けをしていたガイとすれ違う。
「ガイ!」
「セイカ! ……これ、やってるのか?」
「うん。最初はクリアできたんだけど、ジャンプのタイミングが難しくて……」
「なるほどなぁ」
 ガイはコースを目で追う。そしてぶつぶつと何かを呟いてスタート地点に立つ。彼は軽快に障害を乗り越える。最後はスマホロトムでセイカのところまでショートカットした。一連の動作が様になっていて、セイカは彼の舞を眺める。
「って、オレがクリアしても意味ないですよね……」
 トーベよりも先にケロマツが頷く。セイカが受けた依頼は余程のことがない限りセイカがやり遂げる。同じ人間ができたのだから、セイカだってできる。彼女は頬を叩いて気合いを入れた。
「ガイ、コツを教えて!」
 誰かから教えてもらうのは反則ではない。ガイも時間があったので、丁寧にセイカに教える。遠くから「デートだ!」という無邪気な声が聞こえたが、アスレチックに必死になっている当事者の耳には届かなかった。
 ようやく第二ステージをクリアして、今日はここまでにすることにした。話によると次のステージでラストらしい。ポケモン勝負をするよりも大変なミッションを引き受けてしまった、とセイカは後悔するも、ローリングでポケモンの攻撃を避けるいい練習になるかもしれないと切り替えた。
 達成感からか、はたまた実際に体力を消費したからなのか、この日の夕食は誰よりも食べる。
 セイカは屋上に行く。今日の夜は部屋で大人しくしようと決めた。彼女は明日にもアスレチックを攻略するつもりだ。ピュールからリメイクをしてもらった服を受け取り、彼女は上機嫌だった。ミアレで流行っている歌を口ずさむ。
「~♪」
「セイカ?」
「ガイ?」
 髪を下ろしてルームウェアに着替えているセイカと違い、ガイは日中と変わらない恰好だ。彼は夜のミアレシティに出かけるつもりでいる。彼が気合いを入れるために屋上に来たら先客がいた。ホテルZの従業員の憩いの場にもなっていたので、特段驚くことはない。
「うまくいったみたいだな」
「ガイ先生が上手に教えてくれたから」
 セイカは朗らかに笑う。そして拳を突き出した。ガイも拳を出してグータッチをする。ガイは少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
「(本当はオレができたら良かったんだけど)」
 自分のことは棚に上げて、ガイはセイカの心配をする。ピュールからセイカが無茶をしていることは伝わっていた。スマホロトムがあるとはいえ、この町にきたばかりのセイカがするよりも自分が受けたほうが安全だ、とガイは結論付ける。
「(次からは気を付けよう)」
「ガイ? 何かあった?」
「な、なんでもないって。あんまり無理すんなよ!」
「それはわたしのセリフ!」



(セイカ→ガイ) 20260411
 ミアレに捕らわれる


 ガイの澄んだ青色の目は奇麗で、怖い。だって、この町に溶け込んでしまいそうだから。ミアレの意志で彼が動く、そんな気がしてならない。そこに彼の意志はあるのか分からなくなる。でも、ガイはガイだ。全部が全部、この町の思い通りにはいかない。
 気だるげな表情、ポケモンバトルをしているときのギラついた目、そして、何もない無の表情。いつか、デウロと女子トークをしているときにガイの話になった。「実際に付き合うと大変なタイプだよね」と笑い合う。本当にその通りだと思う。でも、そんな彼だからわたしは惹かれた。
 MZ団のリーダーはガイなのだ。それは紛れもない事実。彼はこの町に少しでも未練があれば留めようとする。その強引さが落ち着くし、わたしを含めてデウロとピュールも救われた。ガイ、あなたがいたからわたしはここまで来れたんだよ。
 わたしも一緒にここ(ミアレ)にいる。その間は何度だって彼を呼び戻す。



(DLC後/友達以上恋人未満ガイセイ) 20260411/20260517
 ミアレの狂犬



 ガイはスーツから着慣れた私服に着替えてミアレシティを歩く。わざと裏路地に行けば、怪しげな大人がガイを取り囲んでいた。大人げないな――と、ガイはため息をつきながらその人たちの相手をする。
「くそっ、覚えてろ!」
「ごめん、仕事が忙しくて忘れてるわ」
「ッ!! くそっ!!」
 煽り文句はMZ団の切り札から受け継がれたものかもしれない。ミアレシティではちょっとした有名人(本人談)であるガイは、ゴロツキから目をつけられることも稀にあった。人助けをしている最中や、社長になるために必要な知識を叩きこまれた帰り、危険な集団になればなるほどバトルゾーンの裏でバトルが行われる。
「逃げ足だけは早いんだな……」
 数日後、ガイは〈何でも屋さん〉が〈掃除〉をしたと風の噂で聞いた。

 ガイは追っ手から逃げる。複数人から追いかけられてモンスターボールを取り出す暇もない。なるべく一般人に危害がいかないように、馴染みのある裏路地を駆けていく。幸か不幸かバトルゾーンは真反対の地域に展開されていた。
「(やべ……)」
 珍しくガイが劣勢だった。裏社会に身を寄せる集団がガイを取り囲む。自称〈何でも屋さん〉を謳う組織とは別の、私利私欲のためにポケモンを道具扱いする集まりだった。油断と疲れで適切な判断が取れなかった結果がこれだ。ホテルZで仲間に手料理を振舞おうとしたのに。ガイは舌打ちをした。
「メガニウム、〈つるのむち〉!」
 ガイが手こずっていた原因のひとつ、人質に取られていた色違いのイーブイがメガニウムのつるを使ってセイカの元に渡る。怯えているが、彼女がイーブイに優しく話しかけると腕のなかで大人しくする。
 ガイも彼を追い詰めていた集団も技の指示が聞こえるまで気が付かなかった。セイカとメガニウムが建物の屋上で戦況を伺う。口元は笑みを浮かべているが、目は笑っていない。形勢が逆転する。ガイは警戒を続けながらも息を吐いた。
「まさか、〈ミアレの狂犬〉か!?」
「〈ソーラービーム〉当たりたい?」
「落ち着けって。ニャオニクス、あいつらに〈でんじは〉」
 集団のひとりが本人が気に食わない二つ名を呼べば、遠慮する義理はないと速攻で片付けようとする。〈狂犬〉の飼い主は彼女をなだめつつ、ニャオニクスをモンスターボールから出した。
 クエーサー社の次期社長候補は隙があるようでない。驕りや油断がなければ。彼自身、ポケモンバトルが強く、頼れる秘書のマスカットから護身術も学んだ。昔からの危なっかしさは多少なりとも抑えられて、物事を考えてから行動するようにもなった。
 ……昔から着ているジャケットを羽織れば、途端にいつものガイに戻ると仲間内からは言われているが。
「ライボルト、あいつらを見ててくれないか? ニャオニクスは待機」
「っと。あ、警察には通報してるから」
 セイカはメガニウムをモンスターボールに戻して、イーブイと一緒に着地をする。念のために待機していたニャオニクスの出番はなかった。イーブイはセイカの頬を舐める。イーブイなりの感謝の証だった。
「イーブイ、くすぐったいって」
「サンキュ。セイカが来てくれて助かったぜ」
「ガイがしっかりと守ってくれたから。ね、イーブイ?」
「ブイ!」
 イーブイはガイの肩に乗る。そして彼の頬も舐めた。ガイははにかむ。ほどなくして警察が来て、まひで痺れていた集団はまとめて逮捕された。イーブイはホテルZで保護することとなる。ホテルZに帰る前に、二人はグータッチをした。
「今日はクロワッサンカレー?」
「いろいろあったからな~」
「明日は休みなんでしょう? ……わたしも手伝うから……駄目?」
 セイカは上目遣いでガイを見る。ガイの腕に抱かれていたイーブイもセイカの真似をした。つぶらな瞳の集中攻撃をくらったガイは素直に折れる。何より仲間にご飯を作るのは彼の生きがいのひとつだ。予想外の出来事に巻き込まれたとはいえ、四人で夜ご飯を食べることも可能な時間帯だった。
「早く帰ろう! イーブイもおいしいご飯食べようね」
「ブイ♪」
 セイカはガイに手を伸ばす。ガイはその手を取った。イーブイはすっかり二人に懐く。人間不信になってもおかしくはない境遇だったが、彼らの行動や言葉にイーブイも自然と心を開いた。



(両片想いガイセイ) 20260411


 何もかもが消え去ったミアレシティに、ガイは立ち尽くす。恐る恐る歩きはじめると、瓦礫に混ざって見知った人の私物が落ちていた。不思議と涙は出てこない。
「ッ!!」
 ガイは飛び起きる。時計を見れば、朝食の支度をするにはまだ早い時間だった。
「情けねぇな……」
 夢で見たミアレシティは焦土となっていた。ガイは瓦礫の街を歩く。人間も、ポケモンもいない。おぼつかない足取りで向かった先は、寂れたホテル。扉を開いた瞬間に目が覚めた。
 その先の光景は天国か地獄か。
 アンジュを撃破してから、ガイは週に数回悪夢を見る。それを知っているのは、ポケモンだけ。

 AZが亡くなってもMZ団の拠点はホテルZだ。大人たちの協力により、MZ団の居場所はそのままだった。MZ団の大半が根無し草になる未来は防がれた。
 ガイはロワイヤルに参加せずに、ホテルの屋上からミアレシティを眺めていた。どこからかポケモンバトルをしている音がする。
 セイカは才能の塊だった。あっという間にガイと背を並べ、追い越していく。
 かつてAZも使っていた椅子は、毎日奇麗に掃除されていた。ほかの人も座ることがある。人だけではなく、ポケモンも。今回はガイが使っていた。
「…………」
「キュル」
「フラエッテ……」
 フラエッテがガイの頭を撫でる。種族こそ違うものの、母親が子をあやすかのように。すると、セイカが上からのぞく。一階にはデウロとピュールもいた。
「ガイ、風邪引いちゃうよ」
「セイカ?」
 髪を下ろしているセイカは、いつもよりも大人びて見えた。ガイは視線をそらして立ちあがる。バランスを崩すも、こけることはなかった。
 ガイはこの姿のセイカを見ると動揺する。ガイ自身も理由は分かっていない。
 セイカとフラエッテが笑い、ガイが頬を膨らます。彼は先に年代物のエレベーターに向かう。デウロとピュールがいるのは分かっていた。セイカとフラエッテもエレベーターに乗り込む。

「ここはどこだ?」
 無機質な床と天井、そしてどこまでも続く空間ににいた。いつも見る悪夢とは種類が違った。
「…………」
 そこにいたのは、二度と動かないであろう既に故人になった大切な人たち。夢のなかだと自覚していたからなのか、ガイの感情が動かない。彼女を見るまでは。
「!!」
 悪夢を見ていて、ガイの瞳が初めて揺れた。あっち側になってもおかしくなかったミアレの英雄。
 最終決戦のとき、ガイは無自覚でセイカに母親の面影を重ねていた。フラエッテや彼女のポケモンはいるが、人間はひとり。ひとりきりにしたら、そのまま遠くに行ってしまいそうで。
 だから屁理屈も交えて、ポケモンバトルの勝敗すら無視して、我を押し通した。

 ガイの人探しに区切りがついた。身内は大企業の社長だった。その社長がガイにある提案をする。
「(うちのリーダーを、ガイを引き抜くな)」
 セイカは内心で憤りを覚えた。表情には出していないつもりだったが、ほんの少しだけ眉をひそめる。
 ガイは決断した。祖母の跡を継ぐと。MZ団として活動できる機会が減るだろう。それでも、セイカを中心に回っていく。彼女たちが困ったときに、新しい視点から協力することを彼は望んだ。
「(これでいいんだ)」
「……イヤだ」
 駄々をこねるも、ガイは困ったように笑うだけだ。意見を変えようとはしない。こうなったらガイは意見を曲げない。それは濃い時間を過ごしてきてよく分かっていた。
 血縁と権力の前ではセイカもどうすることもできない。自慢のポケモンバトルでも解決できない問題に、セイカは引き下がるしかなかった。
 ガイを引き留めるためにコネを使うにも、何もかもが不足している。あまりにも突然の話で、セイカが対策を練る時間をまったく作れない状況だった。
「(セイカを守るためにも)」
 これ以上、屍の山を築かないためにも遠回しにセイカを遠ざけた。同時にデウロやピュールも。
 ミアレシティを良くしたいのも事実、悪夢の影響か家族のような仲間たちに対して臆病になっているのも事実。
 クエーサー社を去るセイカの背中は、初めてこの地に来たときのように頼りなかい。一方、セイカの背中を見つめるガイは自我を持たない人形のようだった。
「…………」
 ジェットはそんな二人を見つめるだけだった。
 ミアレシティのシンボルが変わり果てた姿になった後始末、多感な少年少女に充分な時間を与えるほどの猶予はない。タイムリミットはすぐそこまで来ていた。

 ジェットはホテルZの前に立っていた。ガイから話を聞くに、彼は当分ホテルZに戻っていないのだという。思わぬお客様に、ロビーにいたデウロが目を丸くする。
 デウロの連絡で部屋で作業をしていたピュール、ワイルドゾーンでポケモンを鍛えていたセイカはすぐにロビーに集合した。
 AZからガイへ、そしてセイカに渡ったフラエッテはホテルにいることが多い。フラエッテはワイルドゾーンについて行かずにホテルでデウロのダンスを眺めて、ときには一緒に踊っていた。
 ――あなたたちに依頼があります。
 ジェットならば腕のいい医者を呼べるだけの財力がある。それでは、彼は救われない。
 彼女たちの話し合いの裏で、ガイの体は悲鳴を上げた。ジェットの送迎を終えてガイのところに戻っていたマスカットから連絡が入る。

 ガイは何かを忘れるように仕事に没頭する。人助けもして、ミアレシティの現状を把握することも忘れない。ひとつだけ違うのは、ホテルZに寄らずに社宅に住処を構えたこと。
 ある日、無理が祟ったのか過呼吸になる。まともに呼吸をしようとしても却って呼吸が乱れるだけだ。
 数日前から寝不足でも気分が上がっていた。ひとりで食事を取るときはゼリーで済ませることもあった。体がSOSを出すには充分な生活を送っていた。
 ジェットがたびたびアロマオイルなどを送っていたが、蓄積されたものの前では効果はあまりない。
 クエーサー社の一室で休んでいたガイの様子を見る。コンシーラーで隠していたクマが浮き彫りになった。ジェットは事を急ぎ過ぎたと反省する。
「休むのも仕事です」
 ジェットは強制的に休みを与えた。一週間の長期休暇だ。休暇を取っているのに社宅にいるのにも居心地の悪さを覚えて、ホテルZに戻った。ほったらかしにしていた部屋の掃除もある。
 ガイの部屋はセイカを筆頭にほかの二人も掃除をしていたのだが。他人の部屋に勝手に入るのはどうかと思いつつ、三人は交代でガイの部屋を掃除することにしていた。
 ホテルZに戻り、ガイを出迎えたのはセイカとフラエッテ。デウロとピュールは用事があって出かけていた。夕ご飯までには戻ってくるとセイカが嬉しそうに話す。
「ガイ、部屋に入っていい? 話がしたい」
「あぁ」
「……その前に、無事で良かった」
「キュル」
 ガイはホテルに戻ることを三人に伝えていなかった。病み上がりの頭で思ったのは、家に帰ること。セイカのいう無事がどんな意味を持つのか、聞き返すような無粋な真似はしなかった。
 誰か――マスカットあたりが連絡を入れたのだろうと想像できる。
「ごめん」
「今度こそ戻ってこないように思えて怖かった。――お部屋にご案内いたします、お客様。なんてね」
 セイカは一礼をする。どんなに高級な服や化粧で着飾った人たちよりも、いつもとあまり変わらない服で接客をしたセイカが誰よりも美しい。ガイは言葉を失う。
「(あ゛ー)」
 蓋をしていたはずの彼女への執着が顔をのぞかせる。その感情に名前はない。母親やAZ、ジェットとも違う、そしてデウロやピュールとも違う感情だった。



(※アンジュの設定捏造※アンジュ戦の後日談DLC未考慮/MZ団) 20260411


 アンジュの残照がガイを蝕んでいた。人助けが趣味の彼は、自分から助けを求めることは滅多にない。ちょっとしたお願いなら人並みにはある。もしくは人助けが抱えきれなくなったとき。……それだけなのだ、基本的には。
 ガイが忽然と姿を消した。数日前から彼の様子がどこかおかしかった。具体的に変な行動を取っていた訳ではない。その違和感のなさが、どこか違和感だった。
 その違和感をわたしが言語化する前に、彼は何も言わずに消えた。いつものガイなのに、ガイの姿をした人形が動いているかのようだった、そう結論付けたのは消えた彼と対峙したときだ。
「ガイ、帰りが遅いからみんなで迎えに来ちゃった」
「そんな必要ねぇよ」
 本人はいつも通りの笑みを浮かべているつもりなのだろう。彼が浮かべる笑みはかなり歪んでいる。わたしたちが彼の異変に気がついたときには、彼は独りで計画を練り終えていた。
 ガイが消えた後に201号室を捜索すると、彼と特に交友のあった人間に向けての手紙も見つかった。
 わたし宛もあったが、中身を見ずに破り捨てた。そんなもの、いらない。彼の口から直接聞きたい。デウロとピュール宛の手紙もあったらしいが、二人ともわたしと同じように破り捨てたらしい。
「ガイってば勝手すぎる!」
 デウロのもっともな意見に、わたしもピュールも大きく頷いた。なんとしてもあの馬鹿を連れ戻そう。わたしたちは今まで培ってきたコネを駆使して彼の居場所を突きとめる。ポケモンバトルには消極的なピュールが、積極的にポケモンバトルをするようになった。
 プリズムタワーでの攻防は、まだ終わっていない。ミアレシティを脅かした花は完全には散っていなかった。
「ガイ、帰ろう?」
 ミアレで数少ない人が寄りつかない場所。入り組んだ道無き道の先に彼はいた。ここまで歪んだガイの笑顔を見たのは初めてだ。デウロとピュールは戸惑っている。わたしは二人の気持ちも込めて声をかけたが、ガイの表情は変わらない。
「オレの家は、ここだから。――フラエッテ」
「キュッ!」
「ハハ、だよな」
 わたしのそばにいたフラエッテは首を振る。やっぱりガイは勝手だ。ガイの背後から植物のツタのような物が生える。彼はモンスターボールからポケモンを出した。
 相棒たちとは話をつけていたのだろう。主人――ガイの指示に従うつもりだ。ツタは別の意思を持っているのか、わたしたちに照準を合わせている。ガイは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「こうなったらバトルで分からせるしかないみたいね。わたしもデウロもピュールも、言いたいことはたーっくさんあるの!」
 わたしだけではない、デウロとピュールもモンスターボールを持つ。ガイがツタを制御できないなら、バトル中に何が起きてもおかしくはない。わたしたちでガイを連れ戻すんだ。天使の名を持つ悪魔から、今度こそお別れする。


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