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BleuCiel(別館)

気の赴くままに

【魔導ぷよ】SS集

魔導物語(真魔導設定含む)、ぷよぷよ。
SS(掌編)まとめ。随時更新。



 (ドッペルゲンガーアルル、サタン)


 プリンプタウンにおいて、どちらがアルル・ナジャのドッペルゲンガーかなんて不毛な問答かもしれない。
 でも、この地の者ではないボクは疑問を抱く。
「むしろアルルがドッペルゲンガーで、ボクのほうがアルル・ナジャに近い存在なのに」
 誰もいない森のなかで、ボクは満月を眺める。ボク以上の道化師は、今日も今日とてアルルに返り討ちに遭っていた。懲りない男だ。
 そんな道化師は、闇に隠れてボクの行動を監視している。彼のいる方向に向けて、魔法を放つ。
 ボクとしては姿を現してほしいだけなので、サタンに対する威力は無に近い。今の魔法は、あくまでも挨拶にすぎない。
「サタンはイジワルだなぁ」
「……お前が危なっかしいからだ」
「そりゃあ、ボクは枠組みからはずれた存在だし?」
「だが、アルルとしてここにいる」
「あくまでも、《彼女のドッペルゲンガー》としてね」
 ボクは冷笑を浮かべた。
 崩壊した魔導世界も、アルル・ナジャの波乱に満ちた生涯も覚えている。しかしそれは、ボク自身ではない。
 ボクはアルル・ナジャの特異な魔導力の欠片が実体化した存在にすぎない。その事実に気がついたのは、アルルと別れてひとり旅を始めてからだった。
 ドッペルゲンガーですらないボクは、彼女のドッペルゲンガーになることでボクという存在を確立する。アルルという太陽が存在しないと、ボクは消えてしまう。
 彼女はその事実を知らない。



 (ドッペルゲンガーアルル)


「(この喧騒なら、ハーピーの声も通らないだろうね)」
 ドッペルゲンガーアルルは、カレーに舌鼓を打ちながらプリンプタウンで行われているパーティーのようすを観察する。カレーはアルルの世界の者が担当した。鍋奉行ならぬカレー奉行がいるチームが作ったカレーは、みんなに好評だ。
 元々この地に住んでいた者、ほかの場所からやって来た者、種族も立場も関係なく、宴が繰り広げられる。アルルたちの世界ではお馴染みの魔導酒を、彼女たちは大手を振って飲む。普段はアコールが睨みを利かせ、魔導学校の生徒の前――特にアミティたちの前で飲めずにいた。
「ディーア、ぷよ勝負しよう!」
「顔が赤いよ? そんな調子で、ボクに勝てるとでも思ってる?」



 (ドッペルゲンガーアルル、アルル、サタン)


 ドッペルゲンガーアルルは虫の息になっているアルルを見下す。適切な手当てをしなければ、長くはもたないだろう。
 とどめの一撃を与えようかとした瞬間、第三者の手がドッペルの手を掴む。
 溜めていた魔導力は散漫となり、技は不発に終わる。
「――サタン、どいてよ」
「アルル、何をしようとしている?」
「関係ない」
 ドッペルはサタンを睨みつける。サタンは真剣な面持ちで彼女たちを見ていた。



 (クルーク、あやしいクルーク)


 クルークはマモノが宿っている本に問いかける。
「キミはどこに向かうつもりなんだい?」
『それをお前が知ってどうする?』
「ただ気になっただけさ」
『変わったやつだな』
「うるさい」
『――私がお前の手助けをしようか?』
「断る」
 マモノの誘いをクルークは一蹴する。
「それはキミの力だろう」



 (クルーク、あやしいクルーク、ドッペルゲンガーアルル、アコール)


「…………!?」
「あぁ、おはよう」
「え、えぇ……!?」
 クルークはリビングに向かい、腰を抜かした。目の前で起きている現象は、どんな目覚ましよりも効果的だ。本来はいるはずのないマモノがクルークの家に当たり前のようにいる。両親はマモノの存在に疑問をもつこともない。
「(いやいやいや、おかしいって!)」
 クルークの動揺は誰にも伝わらない。マモノは意味深な笑みを浮かべながら、彼の反応を楽しむ。マモノの姿はクルークに憑依したときの姿だ。クルークはいつもより早く朝の支度を済まして学校へと向かう。当たり前のようにマモノもついて行く。
 クルークは通学路から外れた小道で立ち止まる。マモノの感情は読み取れない。同じ体を有しているはずなのに、一緒にいる 矛盾への解答をマモノなら知っているとクルークは踏んだ。
「どうしてキミがいるんだ?」
「のっぴきない事情で」
「親にはどう説明した?」
「さっきもあの人たちが言ってたじゃないか。親戚だって」
「それで納得するほど甘くない。認識を歪ませたのか?」
「それで何か困ったことでも?」
「(埒が明かない)」
 マモノは余裕の態度を崩さない。クルークはマモノに詰問することを諦めた。このまま押し問答を続けると、学校に遅刻してしまう。

*ネタばらし*
 プリンプに訪れたディーアはある面々に会いにいく。ピエロの面の裏では、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「アコール先生、ちょっと話があるんだけど」
「あら、あなたから声がかかるなんて珍しい」
「明日はぷよが大量に降るニャ?」
「酷い言い草だなぁ。ちょっとしたショーをしようと思ってね」
 ディーアは仮面を外し、自分の計画を打ち明ける。それは裏で生きるものが表舞台に立つための仕掛けだった。アコールが教鞭を振るっている学校に数日だけ生徒として参加すること。
 そのときに、クルークが普段から持ち歩いている本に宿っているマモノも憑依せずに彼と並ぶこと。
「ですが……」
 アコールは言葉につまる。ディーアだけなら提案をすんなりと受け入れるつもりだった。しかし、マモノも一緒となると訳が違う。
 そんな彼女の反応もディーアは織り込み済みだった。彼女の世界のきまぐれ魔王の名を出す。
「サタンにも協力してもらうんだ」
「なるほど、彼ですか」
「ボクが言えばサタンも動くと思うよ? どうかな?」



※未来捏造/死ネタ※
 (クルーク、あやしいクルーク)


マモノはお墓に花を添える。
「……これが弔うということか」
ほかの種族より寿命の長いマモノは、当然のようにクルークの天寿を見届ける。
クルークの手に渡ってからのマモノは起伏にとんだ半生を送った。
「――《 》」
世界にたったひとつだけの名前を呟く。何物にも代えがたい宝物だ。
クルークが天寿をまっとうした日にマモノは実体化した。彼らが出逢ったときの少年の姿で。
「クルーク、世界は広いな」
彼は空を見上げる。


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