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BleuCiel(別館)

二次創作、時々一次創作置き場。イラストも?

【ブルードラゴン】灰色の世界【SS】

アニメ版ブルードラゴン。二期。
妄想設定有。
クルック視点。
クルック、シュウ、アンドロポフ。

イメソンはamazarashiさんの『アンチノミー』。





 灰色の世界


 ゾラのことを信じ切っていれば、あたしは救われただろうか。ロギさんの言うことを受け入れていれば、被害はもう少し抑えられたのだろうか。どっちつかずのあたしは、ただ目の前の負傷者を癒すために従事する。たとえその人たちが、近い将来あたしに刃を向けることになっても。まるであたしが殺されるために生かしているみたい。どう転ぶのかは、そのときになってみないと分からない。
『――ありがとう』
 患者さんに感謝されるたびに、あたしの心は痛む。引き金を引いたのはあたしだ。それを知るのはごく一部の人間のみ。病院に運び込まれた患者さんは全員が完全に回復する訳ではない。後遺症が残る患者さんも、息を引き取る患者さんもいる。そんな人たちに対して、魔法使いでもなんでもないあたしは無力だ。こんな争いに加担したあたしへの罰だと思って、毎日を過ごしていた。何もかも苦しい訳ではないが、ふとした拍子に罪の重さを知る。
 そんなあたしの元に、一人の患者さんがやってきた。全身に深い傷を負っていたけれど声で分かる、アンドロポフだ。彼と一緒にいたはずのシュナイダーさんはいない。もう駄目だと思っていた人が生きていて、思わずあたしは彼の手を取った。重傷を負ったもののアンドロポフがここに来て、シュナイダーさんの姿が見えないのならきっとそういうことなのだろう。出来ればシュナイダーさんも助けたかったけれど、最悪の未来が回避されたことは嬉しい。
 そんなある日、シュウにレジスタンスに来ないかと誘われた。機械を触ることは得意だ。少しぐらいなら医療の知識もある。でも、いくらシュウの頼みでも戦うことは怖い。アンドロポフの提案、シュウを呼ぶブーケ。シュウは一人じゃない。だから、あたしは意を決してシュウの誘いを断った。一瞬幼い頃のシュウと重なった。普段見せない、彼の寂しげな表情は見て見ぬふりをする。あたしはシュウを呼ぶブーケに目を向けた。
「シュウ、ブーケを待たせちゃ駄目じゃない」
「あ、あぁ……」
「またね」
「……また」
 シュウが遠くなる。これで良い。今のあたしはシュウの足を引っ張ってしまう。涙をぐっとこらえる。誘ってくれたアンドロポフに失礼だし、あたしが泣くなんてお門違いだから。最終的にアンドロポフの提案を受け入れたのはあたしだ。それでも自然と言葉がこぼれ落ちる。家族同然に育った幼馴染とこんなふうに別れるなんて思っていなかったから。
「――ごめんね、シュウ」

 アンドロポフとともに彼の療養を兼ねて新しく移り住んだ村でも、風の噂でシュウたちの話題はときどき耳にする。でも世界情勢は入ってこない。この村はあたしにとって住みよい場所。先の大戦で疲弊した村の人たちとも交流を重ねて、受け入れてもらった。あたしたちのことを詳しく話していないのに。こうしてコミュニティに入れてもらえるのはありがたい。けれど、申し訳ない気持ちもある訳で。こうしてしまった一因にあたしたちはいるだろうから。
「(これは夢)」
『どうしてあの子を見捨てたの?』
「(違う……あたしは……)」
 闇との戦いで混乱していた病院も、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。患者さんや仕事仲間から惜しまれつつも、あたしはアンドロポフの療養に専念することを決意する。シュウに言った「またね」を先延ばしにするためにも。ときどき見る悪夢。シュウの両親があたしを見ていた。足元には大量の死体。所属はバラバラだ。みんな、あたしを責める。耳を塞いでも怨嗟の声は止まることがない。手らしき物があたしの足を掴む。誰かに助けを呼ぼうとした。でも、誰を呼べばいいか分からない。
「――ッ」
 動悸が止まらない。すっかり目が覚めてしまった。目を閉じるとまたあの悪夢を見そうで、あたしはそっとベットを離れる。ミルクを注いで椅子に座った。この村にも戦争の余波を受けた子供たちがいると知り、あたしはその子たちの面倒を見るようになった。アンドロポフも一人で行動出来るようになり、今はリハビリも兼ねてなるべくあたしの補助なしに行動するようにしている。
 ゾラと一緒に旅をしたときの仲間たちとは当分会えていない。フェニックスがいない以上、この村を長期間空けることは出来ない。それは都合の良い言い訳だって理解している。連絡を取る方法はあるけれど、現状を壊したくない。シュウとブーケはレジスタンス活動、ジーロはきっと旅をしている。マルマロには帰るべき場所がある。ジーロは家族を失って、師と呼べる人も失って、それでも前に進んでいるのだろう。
「あたし、逃げてるのかなぁ」
「そんなことない」
「アンドロポフ……。ごめん、起こしちゃった?」
「気にするな」
 あたしはアンドロポフの飲み物を用意する。今も世界のどこかでは争いが起こっている。しわ寄せは何も罪のない子供たちにいく。行動することが怖い。無事に退院した患者さんは再び戦場に足を踏み入れているのだろうか。それとも、あたしたちみたいに戦いから遠ざかっているのだろうか。元気にしていたら、それだけで良い。あたしが口を出す権利はないのだから。アンドロポフはコップを持って目線の泳がせる。
「クルック、その……ここはおれが誘った場所だ。それに、村の子供たちの面倒も見てくれている」
 アンドロポフなりの気遣いが心に染みる。かつて敵同士だったとしても、話してみれば同じ人間なんだと思い知らされる。倒し倒された人たちも、もしかしたら分かり合えたのかもしれない。悪夢のなかの死体の山にはシュナイダーさんもいた。彼は闇との戦いで命を落とした。あたしが行動に移さなければ、助かったかもしれない命。アンドロポフはひと言もそんなこと言わないけれど。
「ありがとう、アンドロポフ」
「べ、別に……」
 アンドロポフは意外と分かりやすい。戦場に出ていた理由も至ってシンプルなものだった。意外とロギさんって人望があるから、多くの理由は必要なかっかのかもしれない。それも立派な戦う理由の一つだ。誰も否定することは出来ない。でも、もっと早く彼のことを知っていれば何か変わっただろうか。ロギさんが信頼を寄せていたであろう部下は、アンドロポフ以外散った。きっとアンドロポフがあたしと一緒にいるなんてロギさんは知る由もないのだろう。彼も心を痛めているだろうか。
 数年前まではあたしとアンドロポフもお互い見ず知らずの人間だった。アンドロポフは戦場で命のやり取りをして、あたしはタタの村でシュウやほかの子供たちと一緒に笑ったり泣いたりしていた。ほかの村では無慈悲に命が刈り取られていることも知らずに。きっとお互いの名も知らぬまま、どちらかが、または二人とも死んでいたのだろう。アンドロポフに気を遣わせる前に、言っておいたほうがいいかもしれない。……あたしの家族のこと。
「アンドロポフ、ちょっと良い?」
「おぅ」
「あたし、両親がしばらく前から行方不明なんだ。元々物も少なかったし、タタの村に帰らなくてもいいかなって思ってる。だからあたしの家のこととかは気にしないでね」
「……そっか」
 なんとなくタタの村には帰りにくい。シュウは何度か帰っているだろうか。あたしが帰ったとしても、きっと両親はいない。誰かと一緒なら静寂も悪くない。アンドロポフとこうして過ごすようになって、そう思えるようになった。……この居心地の良さに、罪悪感を覚えつつ。アンドロポフもあたしも、誰かを葬っている。そんな二人がこんな平穏な日々を過ごしても良いのか。きっといつの日か終わりがくる、そのときまで、せめて。
 悪い奴をやっつける。世界はそんな単純ではなかった。だから自分が正しいと思う方向へと進む。そうしないとあたしたちは前へ進めない。悪の定義すら今のあたしには分からない。それでもあたしは生きている。生き延びて、仮初の平和を謳歌している。この矛盾だらけの世界で。


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