アニメ版ブルードラゴン。一期から二期の間。
シュウ視点。
シュウ、クルック、ブーケ。
タイトルはアニメブルドラのEDより。
『蕾~Tsubomi~』
「クルック……」
オレは幼馴染の名前を呼ぶ。かつては一緒の村に住んで、ほかの仲間とともに旅をした。旅が終わってからもずっと一緒に過ごすと思っていた。でも、そうはいかない。当たり前かと思っていた日々は、特別なものに変わった。
クルックは再び戦いに行くことを拒んだ。オレはてっきり、すんなりと承諾してくれると思い込んでいた。アンドロポフがクルックに助言をして、オレを追いかけてきたブーケが来たことでクルックはオレと違う道を選んだ。
「シュウ、どうしたの?」
「ブーケか。なかなか上手くいかねぇよなぁ」
「もー、またクルックのこと?」
「……あぁ」
クルックと別れてしばらく経つ。オレはブーケと一緒にレジスタンス活動をしていた。影の能力は失っても出来ることはあると信じて。自分自身、無意識のうちにクルックに頼り過ぎていたことを痛感した。何かあったときに当たり前のようにクルックを名前を呼んでしまうときがある。
もちろんブーケが嫌いなわけではない。むしろ大切な仲間だと思っている。影をなくした痛みが解る、数少ない仲間。こうしてレジスタンス活動を続けていられるのもブーケのおかげだ。でも、今のオレの頭の中はクルックでいっぱいだった。そういうときのブーケは大人しい。
「クルックって何してるんだろうな」
ブーケに聞いても分かるはずがない。きっと今もどこかで誰かを助けているだろう。アンドロポフの看病をして、クルックなりの方法でアンドロポフ以外も助けようとしている。影が使えていた頃と同じように、自分を犠牲にしてまで誰かに手をさし伸ばす。
オレにはそんな真似出来ないけれど。だからこうして旅を続けている。その結果誰かが傷付くことになっても、怪我をさせる前に守り切りたい。それはそれとして、クルックに今すぐに会いに行きたい。話をするだけでも良い。別れる前のように他愛のない話をしたい。
「さーね。シュウ、やっぱりクルックのこと……」
「分からない。でも……、憧れてる。オレには出来ないこと、たくさん出来るから」
もう、あの日々に戻ることは出来ない。どうしてもネネや闇との戦いを思い出してしまう。クルックが闇との戦いで傷ついた人たちを助けていたのは知っていた。悲惨な状況は嫌でも耳に入った。クルックはそんな人たちにも最期まで寄り添ったんだと思う。
* * *
旅に出る一年前の、オレとクルックの誕生日。オレは男たちの遊び場で見付けた綺麗な緑色の石を持ってクルックに会いに行く。最初は土で汚かったけれど、石をピカピカに磨いたら凄く綺麗な緑色をしていた。クルックの目の色だ。オレはそう思った。
曇りのない、鮮やかな緑色はクルックの目にそっくりだ。オレは誕生日まで大切にしまう。普段は散らかしてばかりのオレも、こればかりはなくさないように決まった場所にしまうようにした。時々石を見て、汚れていたらまた綺麗に磨く。
「クルック、これ!」
「綺麗……。シュウ、本当に良いの?」
クルックは目を輝かせていた。普段はオレらとよく遊んでいるけれど、やっぱりクルックも女の子だ。クルックは喜んでくれた。あいつは機械いじりが好きなのに、部屋のなかは意外と綺麗だ。綺麗というか……殺風景というか……。
「シュウ、あたしからも!」
クルックが出したのは熊のぬいぐるみだった。少し形が歪だったけれど、それでもちゃんと熊のぬいぐるみだって分かる。形よりも、わざわざ作ってくれたことが嬉しかった。オレもクルックもこのときはすでに両親が不在だったけれど、二人が一緒なら乗り越えられると信じていた。
***
――あぁ 会いたくて でも会いたくて
壊れそうに 寂しい夜は 君の名を呼ぶよ
弱い自分に負けないようにと