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BleuCiel(別館)

二次創作、時々一次創作置き場。イラストも?

【ブルードラゴン】崩れた輪舞曲(ロンド)【SS】

続きもの
アニメ版ブルードラゴン。二期数年後。
クルック、シュウ、ジーロ、ブーケ、マルマロ、アンドロポフ、ノイ。



 2,崩れた輪舞曲(ロンド)


「(…………?)」
 違和感を感じ、クルックはゆっくりと目を開く。彼女は本来、自宅にいるはずだ。一日も終わり、明日に備えて就寝しているはずだった。しかしいるべき自宅におらず、なぜか封印の地に立っている。
 あたりを見回すと、かつてゾラとともに旅をしたメンバーがいた。ほかの仲間も互いを見て、首をかしげたり自分の姿を確認したりする。彼女たちの着ている服は、かつてゾラと旅をしていたときの服装だ。
 クルックが視線を落とすと、見覚えのある桃色のワンピースが見えた。彼女は服を指でつまむ。なじみがある触り心地が指を刺激する。服の素材も旅をしていたころと同じ物だった。正真正銘、あの頃の服装そのままだ。
「(ノイもいるの?)」
 クルックは首をかしげる。やがて、仲間の視線は一点に集まる。水色の髪の毛に、白い肌の少年――ノイ。視線の先にいる彼は、腕組みをしてシュウたちを待ち構えていた。見た目は幼いながらも、威厳はこの場で一番ある。
 現在と過去が混在する、夢ならではの奇妙な光景。ノイは、おもむろに口を開いた。
 ゾラの魂が、時空の境目でさまよっていること。特異な空間にいるゾラが、今ならシュウたちのところへ帰ってくるかもしれないこと。
 シュウたちの間に、動揺が走る。ノイの表情は、まったく変わらない。彼は、シュウたちをじっと観察する。膠着状態のなかで先陣を切ったのは、クルックとジーロだった。
「ゾラが戻ってくるの?」
「それは本当なのか?」
「嘘をついてどうする」
 クルックとジーロは、怪訝そうにノイに問う。本当なら両手を上げて喜びもしたいところだが、彼女らは立ち止まる。
 かつて一緒に旅をしていたシュウやブーケ、マルマロはまだしも、交流があまりなかったクルックとジーロは半信半疑でノイの話を聞いていた。
 今まで消えたと思っていたゾラが帰ってくるかもしれないと突然言われても、簡単に信じることはできずにいる。手が出そうなほど美味しい提案に、はいそうですかと無条件に飲むことはしない。
 たとえそれが、特別な能力を持った人外――上位生命体の言葉であったとしても。
 その慎重さは、ひとえにゾラの件があったから。ノイにとっては想定内の反応だったようで、気にする素振りを見せない。むしろ全員にすんなりと受け入れられたら、それはそれでノイは面食らう。
 今の封印の地には、鳥のさえずりですら聞こえない。ノイは澄ました顔で、シュウたちに告げる。それはそうだ。ノイにとって、メリットもデメリットすらもない。
 たとえ伝説の影使いの末裔であってもシュウたちには不可能で、上位生命体だからこそ可能な暴挙だ。
「最終的に信じるかどうかは、お前たち次第だ。ゾラに会いたいのなら七日後の夕刻、ここに来るといい」
 ノイは竜の姿となり、空へと向かう。誰もが声を発しない。ブーケやマルマロが口をわずかに動かすだけだ。それが声になることはない。あまりにも突然のことで、みんなは戸惑っていた。
 ゾラに次ぐ仲間内でのリーダーのような存在であるシュウが、意を決して声を上げる。せめてゾラとともに旅をした仲間には、伝えておきたいことがあった。今までタイミングがつかめず話せずじまいだったが、ようやく伝えることができる。
 シュウはみんなと視線を合わせ、大きく深呼吸した。彼の目は、真剣そのものだ。
「ルドルフと戦ったときに、ゾラに会ったんだ」
「「「……!!」」」
 残りの面々がはっと息をのむ。目を丸くしたり、眉間に皺を寄せたり……。
 ゾラの存在は、子供だった彼らにとってあまりにも大き過ぎるものだった。だからこそ、喪失したときの心の傷は深い。その傷は、一生を費やしても癒えることはないだろう。
 シュウがいたずらにゾラの話題を出す性格ではないのは、ここにいるみんなが分かっている。――なんで? どうして? 叫びたくなる衝動を抑えて、目線でシュウに話の続きをせがんだ。
 シュウはすぐに話さず、言葉を慎重に選ぶ。彼自身の目から見たゾラを、きちんと伝えるために。言葉にして相手に伝えることの大切さは、身に染みて体感している。
 ノイが提示した選択肢は、各々が決めることだ。そのことに関しては、シュウも異論はない。ただ、ゾラと会ったときのことをシュウだけが隠し持っていることは、彼にできなかった。
「ゾラは憑き物が落ちたみたいだった。オレたちに対して罪悪感も持ってた。それでさ、改めて思ったんだ。ゾラは確かにオレらの仲間だったんだって」
「シュウだけずるいマロ!」
「良いな~。ゾラ元気そうだった?」
「元気にしてたと思う……多分」
「多分!?」
 曖昧なシュウの回答に、ブーケはつっこみを入れる。あのときは必死だった。そのときの状況を完璧に記憶している自信は、シュウにない。彼のまっすぐな想いが、仲間を突き動かす。それは、今も昔も変わらない。
 ブーケとマルマロはゾラに会ったことを声に出して羨ましがり、ジーロはシュウが放った言葉の意味を噛みしめている。クルックは瞳を閉じ胸に手を当て、ローゼンクロイツに捕らわれていたときのことを思い起こす。
 シュウたちは知らない、クルックの秘密。彼女は過ぎたことを、彼らに話すつもりはない。
 ロギの言葉を聞いてもなおゾラに対して多少なりとも信頼があったのは、シュウがゾラのことを信頼していたから、そしてロギの告げる事実よりも、自分の目で見て感じたことを優先したかったからだ。
 クルックはゾラに対して向ける感情が一方通行ではなかったことに、安堵する。光の戦士の末裔として、ただ利用されているだけではなかった。
「(そうだよね……。ゾラは……、仲間だよね……)」
「……仲間か」
 ジーロがゾラと出会った頃、彼は荒れていた。村を焼かれ、ただひとりだけ生き残ってしまった少年は、復讐のためだけに生きていた。
 ゾラから《影》という存在を教わり、ジーロはゾラとともに影使いとして成長していくことを選ぶ。ネネを倒す、という目的が一致しただけの仲間だった。そのときの彼に、今のような仲間意識はない。
 シュウたちと出会い、ジーロのなかでの仲間の定義が徐々に変わっていく。……そんな矢先の、ゾラの一件。
 《闇》が解放され、ジーロとクルックはゾラに対して懐疑的だった。今までともに旅をしていて、急に敵だとは認識したくない。しかし、ゾラの行動はそう思っても仕方ないものだった。
 それでも、二人にもゾラのことを仲間だと信じる心はあった。だから懊悩する。二人の心に巣食う、異物のひとつが消えた。
 ネネがゾラに対して告げた家族ごっこも、真っ赤な嘘だとは限らない。それぞれの方向に個性が強い子供の面倒は、さぞかし大変だっただろう。クルックは、シュウを羨望のまなざしで見つめる。
「(いいなぁ)」
 あくまでも《影》が使えるだけの人間にはゾラに会う資格がないと告げられたような気がして、クルックはシュウに対して嫉妬心を多少抱く。……瞬間移動までしたのに、ゾラはクルックには応えてくれなかった。
 クルックにしては短絡的で幼稚な発想だ。彼女の感情は、まるで保護者に構ってもらえなくて駄々をこねているかのようだ。
「「「……!?」」」
 シュウたちの体が、急に軽くなる。彼らが、夢から醒めることを示唆していた。ふわりと体が宙に浮き、仮初の封印の地から去る時間が迫る。
 マルマロはラッキースケベに遭遇することを期待したが、残念ながら彼の思い描くようなことは起こらない。
「(うまくいかないマロ……)」
「……ちょっと、マルマロ?」
「ま、マロ~」
 あからさまに落胆するマルマロを見て、ブーケは良からぬことを期待していたことを見抜く。彼の下心は、平常運転だ。
 ブーケは、落ち込むマルマロをジト目でにらんだ。マルマロは、ブーケからの鋭い視線をわざとらしくそらす。そして、リズムがどこかちぐはぐな鼻歌を歌ってはぐらかした。
 クルックは思考の海に沈み、マルマロの下心に気づかない。タイムリミットが近づいていることにも、クルックは気がついていない。
「…………」
「(クルック?)」
 シュウがクルックの様子を案じるも、声をかける前に夢から覚める。クルックのことが気にかかるが、彼女はひとりではない。シュウは、アンドロポフにクルックを託す。
 彼らは、それぞれの場所へと戻った。ゾラのいない、さまざまな想いが交錯する現実へと。
 役目を終えた空間は、最初から存在しなかったかのように跡形もなく消え去った。《本来なら在りもしない無》、それが真の姿だ。

*ノイ*
 ぼくたち上位生命体は、地上の者に手出ししないと決めていた。だが、最後に気まぐれを起こすのも悪くない。そこで目をつけたのは、ゾラの魂だった。
 遺されたものの意志か、ゾラ本人の意志か、長い月日を擁してもまだ完全には消滅していない。
 光の戦士の末裔のひとりが、ゾラの消えた場所に往々にして瞬間移動していることも上空から見ていた。上位生命体で会議をして、一度だけチャンスを与えることにする。
 今のゾラが戻ってきたところで、世界にとっては小さな出来事のひとつに収まる。そこからは、地上で生きる者たちが好きに行動していけばいい。
 ぼくたち上位生命体はその行き先に罰を与えることも、救済することもしない。
 地上の者はあえてけしかけなくても、いつだって己の手で自ら試練を課す。シュウがゾラに会ったことを告白した際に、クルックが抱いた卑賎な感情も、また試練のひとつだろうか。
 ぼくはいったんシュウたちから離れて、状況を監視していた。クルックにとって百も承知かもしれないが、念のため、彼女に伝えておかなければならないことがある。
「クルック、ひとつ忠告しておく」
「何? あたしだけ残して」
 伝えるだけ伝えて、ひと段落したところでクルック以外は帰す。選ぶのは彼ら自身だ。その選択に誰も――たとえ仲間内であっても、文句は言えまい。
 シュウの幼馴染でフェニックスの使い手である少女は、どうも自分を蔑ろにする節がある。優しい、と言えばそれまでだが、周りにいる者はさぞかしひやひやしているだろう。彼女の優しさは能力と相まって諸刃の剣だ。
 聡明なクルックは、ぼくの口から出る言葉をすでに察しているだろう。彼女でなくても、経験者ならばある程度予測できるかもしれない。彼女は、憂いを秘めた笑みを浮かべる。
 ふと、彼女と初めて対面したときのことを思い出す。シュウが、頑なにひとりで会おうとしていた相手。あのときのシュウは、いつにも増して隙だらけだった。あの状態の彼の目を盗んでクルックに会いに行くのは、朝飯前だ。
 初めて会ったときのクルックは、年の割には大人びていた。声をかけられたときの緊張感は、まるで敵と対峙しているかのようだった。
 ぼくに敵意がないことを察すると、どこか昏い影をまとった柔和な雰囲気の彼女に戻る。その変わり身の早さは、彼女の本音を隠すために、仮面を付け替えているかのようだ。
 その前に会ったジーロは彼女と比べまだ年相応というか、分かりやすかった。
「お前の力はブーケのようにはいかない。時空が歪んでいる場所に対しては、ひと往復するだけでも相当の体力を消費するだろう。ゾラを連れて帰ろうとするなら、いつもと同じ感覚で済むと思うなよ」
「その《いつも》も結構命懸けなんだけど。でもやっぱり、ちょっとだけ考えたい」
「……死んでもいいように準備はしておけ」
 酷なことを言っているのは重々承知のうえで、クルックにあえて厳しい言い方をする。人間としての寿命でも、死ぬにはまだ若い。
「そうね」
 彼女は作り笑いを浮かべる。シュウたちは十年とちょっとで波乱の人生を歩んだ。彼女はどれだけ自分の身を削ることになっても、それはほかの人も同じだろうとゾラ奪還に赴く。
 確かにそれはそうなのだが、わざわざ個人に忠告するぐらいには、彼女に対してリスクが高い。アンドロポフという枷がなければ、彼女は即決していただろう。
「(あとはアンドロポフがどう動くか、か)」
 彼女が戦いの中心に立つにはあまりにも早く、聡かった。無鉄砲でいかない分、たちが悪い。人間同士の戦い、勝者と敗者、巻き込まれた者の行く末……。抱えるべきものが多すぎた。でも、時間は待ってくれない。彼女の心の整理が終わる前に、情報はとめどなく溢れてくる。
 この選択に大儀はないし、世間からもてはやされることもない。ゾラは、世間一般では《悪》に分類されるかもしれない。だからといって、お前たちにゾラを取り戻す機会すら与えられないのも、何かが違うと思った。
 シュウたちと旅をして、ぼくもだいぶ地上の者の肩を持つようになった。
 でも、これからはそうはいかない。ぼくたち上位生命体は、本来地上の者と積極的に交わることのない種族だ。ぼくたちが介入すると、世界の均衡が崩れてしまう。力を持つ者は、使い時を慎重に考えなければならない。
 ――今から手を出そうとしているのは、ぼくの最後のエゴだ。
 ぼくたちは長い間地上に足を踏み入れ、地上の者とあまりにも深く関わってしまった。少しだけ待てば、シュウたちの寿命が尽きる。
 ぼくは待つだけで良いのだ。……否、待つべきだ。それが、今のぼくのすべきことなのだから。
「まったく、難儀なものだ」
「みんな一緒なのよ。だからこそ試練を与えたんでしょ?」
「かもしれないな」
 ぼくらだって、迷うこともある。そのおかげでシュウたちと出会えた。出会いの先に待つものが別れだったとしても、彼らと出会ったことに後悔はしていない。

* * *

「……あれ?」
 クルックは目を覚ます。そこは封印の地(を模した場所)ではなく、クルックとアンドロポフが住んでいる家だった。夢のなかで桃色のワンピースに衣替えしていた服装は、寝間着に戻っていた。
 一度は木っ端微塵に破壊されたが、村の人たちの好意により、村外れの空き家を改装した新たな家が提供された。前の家の面影を残しつつも、面積はひと回りも大きい。
 以前と違い村のなかにある家では、村の子供たちが二人の家に遊びに来ることもある。家のなかでは料理教室が開かれたり、勉強会が行われたり……。大人とも、お茶会を開くこともある。
 まれに子供たちとは瞬間移動能力を使い、遠くの町まで出かけることもあった。子供たちは村とは違う雰囲気の、未知の世界に目を輝かせる。
 ときに、アンドロポフも一緒に行くこともあった。彼の経歴に関連して、若干の変装をする。
 家の外の鉢植えには、色鮮やかな草花が植えられていた。まだ蕾だったり、開花していたり、さまざまな種類の草花が並ぶ。種や苗を購入したり、村の人から譲ってもらったり、入手経路はさまざまだ。
 小規模なガーデニングは子供たちの成長を見ているかのようで、二人にとって生きがいのひとつになった。二人が手を付けられる規模のガーデニングだが、彼女たちの性格からなのか奇麗にまとまっている。
「(夢……? でも、夢にしては出来過ぎてる)」
 ノイから告げられたこと、シュウが語ったゾラとの邂逅、すべてが《夢》の一言で片付けられるものではなかった。彼が指定した期限までに、各々が選択しなければならない。
 世界にとっては些細な、しかし当事者にとってはとても大きな選択だ。
 クルックは、横になって考えた。彼女は、穏やかな顔で眠っているアンドロポフを盗み見る。
 もしアンドロポフと再会することがなければ、彼とともに戦ったシュナイダーが一命を取り留めていたならば、クルックは迷いなく選択していた。でも、アンドロポフのそばにシュナイダーはいない。ロギとも離れて暮らしている。
 彼女の心のなかにあるのはゾラが戻ってくるかもしれない希望と、自分だけが享受できるかもしれないという、アンドロポフに対する申し訳なさ。
 クルックはなるべく物音を立てずに、ベッドから出た。彼女は窓越しから、星屑がよ散りばめられた夜空を見上げる。満月に近い月は、静かに地上を見守っていた。
 月がどこかゾラとかぶり、彼女はひとり涙を流す。近いようで遠かった、ゾラの背中。
 最初はシュウのことが心配で、影使いとして覚醒していないにも関わらず旅に同行するだけだった。紆余曲折あり、彼女にとって大切な存在が増える。
 涙を拭い、再度月を見た。月は雲に隠れることもなく、変わらずそこにある。完全には踏ん切りがついていないが、彼女の心はゾラを渇望していた。
 翌朝、クルックはずっと落ち着きがなかった。アンドロポフもクルックの様子がおかしいことは察していたが、あえて執拗に指摘はしない。
 朝ご飯を食べ終えると、彼女は腹を括る。隠していても仕方ない。このままずるずる伸ばしていても、日常生活にも支障が出かねない。どんなに親しくとも、口に出さなければ何も始まらない。それが、どんなことであれ。
「アンドロポフ、話があるの」
「ん、分かった」
 アンドロポフに、夢でノイに言われたことを話す。夢のなかの出来事を話しているあいだ、クルックはアンドロポフに対する罪悪感で、彼の顔を直視できなかった。
 彼は、自分のせいで決断をくだせないことを読み取る。――彼女の選択に異議は挟まない。それは、アンドロポフがクルックからシュウを遠ざけたときから変わらない誓い。
 ゾラを取り戻すことが一筋縄でいかないことは、クルックの話から分かっている。今アンドロポフにできることは、クルックが本当にしたいことを選択するよう背中を押すこと。目には見えない鍵を、彼女に渡すことだった。
 迷い子のクルックに視線を向ける、アンドロポフの瞳は優しい。
「クルックはどうしたいんだ?」
「あたしは……」
 クルックは、まだ視線を落としている。彼女も、アンドロポフのことを理解している。口に出すと、彼は異議を唱えない。
 たとえ今回の選択がアンドロポフの意にそぐわないことでも、彼はクルックの背中を押すだろう。伊達に数年間同棲していない。お互い、ある程度の思考はお見通しだ。
 クルックは切れ者だが、案外頑固な一面もある。だから、彼女は自分の感情を吐露できずにいる。
 どこまでも他人を優先してしまうクルックに、アンドロポフは今まで隠していたことを明かす。隠すというか、今まで言う必要がなかっただけだが。彼は気丈に振る舞うこともなく、いたって自然体だった。
 これが軍人と一般人との違いか――、とアンドロポフはクルックとの差をぼんやりと感じていた。戦場に身を置く立場として、たとえ前線に立つことは少なくても、いつなんどき戦死するか分からない。
 ずいぶん前から覚悟はできていた。少なくとも、アンドロポフは散って逝った仲間を偲ぶことはあっても、必要以上に個人の影は追わない。
 命はすぐに果てる脆いもの、それぐらいの心持ちをしていないとアンドロポフの精神が持たない。彼の立場上、ひとつの小隊を任されることもあった。
 今の生活になってからはその傾向から少しずつ変わっているが、それでも切り替えることはできるのだろうと推測している。子供ながら、アンドロポフは優秀な軍の者だった。……クルックが関わる場合を除いて。
「おれのことは気にしなくて良い。それに――、」


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