警告:2Bに関する重大なネタバレ。
NieR:Automata。
2B、9S。
記録と記憶
むき出しになった鉄筋コンクリートの隙間から、太陽の光がこぼれ落ちる。本来ならあるはずの天井は崩れ、屋内だった場所に直接日が当たった。蔦は鉄筋を支柱の代わりにして侵食する。人類に押さえつけられていた植物は、縦横無尽に成長していた。地面に溜まったホコリが、振動により舞いあがる。その粒子も光に照らされ、雪のように再び落ちる。人類が去ったあとも動植物は地上で生き続ける。散歩の最中なのか、猪などの動物の姿が見えた。
2Bと9Sは人類に仇なす存在を排除するため、日々終わりなき戦いに身を投じている。そんな彼女たちの、束の間の休息。人類がショッピングモールと呼んでいた場所で、足を止めた。今となってはその面影はほぼないが、推測するだけの情報は揃っている。9Sはデータを閲覧して、この地に何が存在したのか調べた。戦闘に身を置く機械には馴染みのない文字の羅列が、画面に表示される。自身を表現するためのひとつの手段である服などの装粧品を購入する場、さまざまな味を楽しむための食料や飲み物を提供する場、ほかにもアンドロイドにとっては無駄と一蹴されそうなものを提供していた。
「2B、いつか僕たちも《カフェ》で休憩しましょう!」
「私たちには必要ない」
「雰囲気ですよ雰囲気」
まるでどこかあどけなさの残る少年のような反応をする9Sに、2Bは塩対応で返す。9Sはそういう機体だ。2Bを慕い、弟のような態度を取る。彼女は彼に心を乱される。9Sの性能が良すぎるが故の監視、ときには相応の処分をするための機械は一人で悶々とした。廃墟となったショッピングモールのように朽ちはてることはなく、変わらぬ姿で存在し続ける機械の心は変化する。ただの機械仕掛けの人形だったら、苦しむこともない。それでも、2Bは2Bとして9Sと接することが嫌いではない。いつかは人類が遺した建物のように朽ちていくことが出来ることを信じて、2B――2Eは彼を監視し続ける。