お題。
確かに恋だったより
ふたプリMH後
ポイズニーとキリヤが虹の園で暮らしています
藤なぎ、キリほの前提
おかしなことをサラッと笑顔で言ってみる5題
なんか今、笑顔で変なこと言わなかった?
(藤村×なぎさ)
1.ミニスカートは好きですよ、脚が見えますし。
高等部に上がって春が訪れる。ほのかから朴念仁と揶揄られた俺でも美墨さんの態度は気になるものがあった。
お互い運動部で試合にも出ている身としては頻繁にデートはできない。貴重なオフの日が重なって俺と美墨さんは一緒に出かける。
「うわ~可愛い~」
美墨さんは目を輝かしながらマネキンが着ている服を見ていた。
「試着してみる?」
「だだだ大丈夫です! わ、わたしって鍛えてるから似合わないものはとことん似合わなくて……あはは……」
「分かる分かる」
運動部同士通じるものがある。ラクロスも激しいスポーツと聞く。俺としてはレアな服装も見てみたいが、無理強いはできない。
気がついたら結構な時間をウインドウショッピングに費やしていた。美味しそうな昼食をテイクアウトで買って、ベンチで休憩する。
「(美墨さんの足って奇麗だな……)」
ほどよく日焼けをしていて、筋肉もついていて、ただ奇麗なだけじゃない。
「先輩は服どこで買ってます?」
「んー、スポーツ用品店とか昔はほのかが勝手に調べたりもしてたかな」
「さすがほのか……」
ほのかのお節介は今に始まったことではない。俺も美墨さんもほのかのお節介を身に染みて感じている立場だ。
(キリほの,藤なぎ/藤村+キリヤ)
2.興奮しますね、もちろんそういう意味で。
本人は無意識だ、だからタチが悪い。姉さんと一緒に虹の園に戻ってきたボクたちは普通の生活を送ることとなった。
ほのかさんは常識人に見えてときどきとんでもないボケをかましてくる。頭の良さはともかく、美墨先輩のほうがまだ常識人だ。
中等部と高等部のサッカー部の合同練習が終わり、ボクは藤村先輩とだべっていた。木俣先輩は高等部の先輩に呼ばれて今はいない。いわゆる木俣先輩待ちだ。
話の内容は博学の常識人に見せかけたとんでもない天然ボケの人間について。
藤村先輩の鈍感ぶりも目を見張るところがある。過去のボクは目の前の鈍感イケメンを利用したほうが良かったのではないかと自嘲した。
美墨先輩の爆発力を考えると下手に手出しはできないが。
「藤村先輩、ほのかさんって昔からあぁなんですか? よく無事でいますね」
「心を許した相手には結構無防備なところがあるからなー。ほのかだって誰でもって訳じゃないよ」
「それにしても限度があるとは思いますが。(プリキュアとして長年コンビを組んでいる)美墨さんはともかく異性のボクはいかがなものかと」
プリキュアの下りは決して言えない。最近の地味な悩みの種が部活の一環で香水を披露することだろうか。
不意に香ってくる匂いは不快にならず、彼女の魅力を引き立てている。
廊下で披露されるならまだいい。部活終わりで部員が出払ったときや生徒会室で二人きりのときに突然披露されるのは理性が試される。
「そっか、ほのかの作った香水……」
「先輩?」
「あ、いや、こっちの話」
「もしかして美墨先輩もつけてたりしますか?」
「美墨さんに聞いてもはぐらかされるけど、ほのかならやりかねないなぁ」
ボクは無言になる。ほのかさんが頭を抱える鈍感。それをそっくりそのまま彼女にお返ししたいのだけれど。
おそらく美墨先輩なりのアピールをしているのだろう。残念ながらほのかさんの実験に付き合わされる美墨先輩の図が出来上がってしまったようだが。
(藤村×なぎさ)
3.そんなに泣かないでください、理性が保てなくなる。
告白未遂を何度もしてきたなぎさは、ついに藤村に告白をする。ラクロスをするときとは違って今にも泣きそうな顔をしている。捨てられた子犬のようだ。
学校でも人通りの少ない場所は心なしかいつもよりもずっと静かだった。
「俺も美墨さんのことが好きだよ」
「……ぇ」
なぎさの表情が信じられないと物語っている。藤村は苦笑を浮かべて抱きしめた。
「(可愛い)」
一挙一動が愛おしい。年頃の子だ、ついその先まで妄想するも理性で抑える。
(藤村×なぎさ)
4.誘っているように見えたので、つい。
夕日が校舎を照らす。生徒はほとんどいない。美墨さんを無人の教室に誘ってクールダウンしていた。
サッカーが好きだから、点が入ったときの快感が忘れられないから、ここまで駆け抜けてきた。きっと美墨さんもそうなのだろう。
「先輩?」
「ずるい」
「えっ!? ……んっ」
まだ熱が収まりきらない彼女が妙に色っぽく見えて、俺は思わず口を塞いだ。カーテンを利用して死角を作る。だってこんな表情、誰にも見せたくないから。
彼女は目を丸くして、バレないように声を抑えていた。だからちょっといじわるをする。
「せ、せんぱい……ここ、がっこう……んん」
たまたまだった。部活が終わって自主練もしたら結構遅い時間になる。美墨さんと恋人同士になっても一緒にいることは劇的に増える訳ではない。
お互いに夢中になっているものがあるから、そこは割り切っている。それを追いかけているのも俺らの幸せだ。
最初に感じた塩味はすぐになくなってしまう。部活をしている彼女は恋人の俺だってかっこいいと思ってしまうときもあるのに、こうして触れ合っているときの彼女は誰よりも愛おしい。
「先輩のほうがずるいです」
「いいや、美墨さんのほうがずるい」
「……汗臭くないですか?」
上目遣いで俺のことを見る美墨さんは小動物みたいで可愛い。
「俺は気にならなかったけど。……?」
「あっ」
美墨さんの鞄についているポーチが揺れているのは気のせいだろうか。彼女は鞄を後ろに隠す。さっきまでのムードはあっという間に消えてしまった。
彼女はぎこちない笑みを浮かべながら別れの挨拶をする。
「……美墨さん!」
しつこい男は嫌われるだろうか。彼女のイメージを崩してしまわないだろうか。時間はあまり残されていない。迷った末に彼女のおでこにそっとキスをする。
「またね」
「は、はいいっ!」
美墨さんの声が裏返る。これでも美墨さんの態度はだいぶ自然になったと思う。最初の頃は美墨さんの態度の変わりように戸惑ったものだ。
ほのかは美墨さんの恋心を知っていたようだけれど、俺は理解をするのに時間がかかった。
「(可愛いなぁ)」
(キリヤ×ほのか?)
5.好きなんです貴方のことが。だから、いいですよね?
姉さんはアカネさんとたこ焼きの本場である大阪で研修をすると言い、ボクはひとりで取り残されることになった。
そのことを九条さん経由でほのかさんのお節介が発動したのは嬉しい誤算だ。
下校時に美墨先輩がわざとらしい笑顔でボクの肩を叩いたのは牽制か応援か。ボクは適当に流す。普段は藤村先輩にヘタレている人が何を生き生きしているんだか。
道中のスーパーで必要なものを買い揃え、ボクの家に帰る。ひと通りの片づけを終えて、ボクは唐突にベッドの上に誘導してほのかさんを押し倒した。
「キリヤ君?」
「あまり騒ぐと近所迷惑になるので静かにしてくださいね?」
「……その程度で悲鳴をあげるとでも?」
見た目は子供なので虹の園の掟に従い断じて酔ってはいない。ボクが多少の圧を出したところでほのかさんには効かない。
ミップルは美墨先輩に預けている。今頃あの妖精は美墨先輩をしり目に逢瀬を重ねているのだろうか。
「ボクだってその気になればねじ伏せることができます」
「怖い怖い」
「(調子が狂う)」
ほのかさんはボクにその気がないことを分かっている。そもそも《はい》か《いいえ》がはっきりしている人だ。
いくらお節介といえど、むやみやたらに他人の家に押しかけるなんてことを彼女はしない。
「あら、何もしないの?」
「何を期待してるんですか」
ほのかさんはほほ笑む。彼女に告白なんてしていない。それでもしばらくのあいだは彼女は誰のものにもならないと思っているのはおこがましいだろうか。
強いていうなら美墨先輩かもしれない。
見た目からしてボクが襲っている図なのに、立場が逆転しているような錯覚におちいるのはなぜなのか。ボクは手を離す。すると、彼女はボクを抱きしめる。
「逃げちゃだめ」
彼女の手は震えている。あぁ、あのときの出来事がフラッシュバックしているのか。あの頃は彼女もボクも未熟だった。お互いに必死だった。
「逃げませんよ」
「うそ」
「わがままですね……」
高校生にもなると、男女の恋愛事情はより深いものとなる。いい意味でも悪い意味でも。今はまだほのかさんとはそういう関係ではない。
甘酸っぱい響きよりも、依存という単語のほうが似合う。彼女に大きな傷を残してしまったのは事実だ。
「っ」
「(これ以上は、まだ)」
ほのかさんの小さな悲鳴はボクの耳に届く。プリキュアとして戦っているときには考えられない、すぐに消えてしまいそうな声だった。
満足したのかほのかさんの手が緩む。ボクは彼女から離れた。ミップルを美墨先輩に預けて良かった。だからこそほのかさんはこんな行動に走ったのだろうか。
……そういうボクだって、二人きりだったからこんな行動に出てしまった。
「優しいのね」
「からかってます?」
「そんなことはないわ」
ああ、気づいてしまったんですか?
……聞き流してくれていて良かったのに。