(勝ヒナ)
勝治誕20241121 ヒナーノはめったに会えない恋人に送る誕生日プレゼントを何にするか悩んでいた。紆余曲折ありながらも恋仲となった二人は手紙と電話を用いて親睦を深める。
恋人となってから初めて渡すプレゼントは悔いのないようにしたい、二択に絞ったが彼女はまだ決め切れていない。奇麗に加工された二つの貝殻はヒナーノの目の前に鎮座している。彼女は勝治の笑顔を思い浮かべながら貝殻に目を向けた。
外に出て遊んでいたコーキが帰ってきた。彼らは姉弟共用の部屋を使っており、自分の部屋に戻ったコーキは頭を抱えているヒナーノの隣に立つ。
「うーん、どれにしよう」
「いいなー、ボクも行きたいー」
「コーキはまた今度ね」
「えー」
コーキは頬を膨らます。ヒナーノは弟の頭を撫でた。彼は勝治や勝治の友人とボーグバトルをすることが大好きだ。残念ながらこの島にボーガーはいないので、ボーグマシンを持っても素振りぐらいしかすることしかないが。
ヒナーノはボーグバトルをするより見るほうが好きで、弟に誘われても始めようとは思わなかった。最初は何度も誘っていたコーキも、姉がプレイヤー側に回ることはないと察して今ではおとなしくしている。
「ボクはこっち!」
コーキはヒナーノが悩んでいた二択の片方を指す。姉が勝治へのプレゼントを何にするかで悩んでいることは知っていた。弟の援護射撃に姉は微笑む。コーキも勝治に対して何かしら祝いたかった。
……将来義理の兄になるかもしれない相手だから、などと計算はしていない。
「ちゃんとコーキの分も送るね」
勝治がほかの人と比べて体が弱い。だから現世に執着してもらうように、少しでも長く生きるように彼女なりの精一杯の気持ちを彼に送る。
――勝治にとってヒナーノの笑顔が何よりの贈り物、かもしれない。
「カツジ!」
「ヒナーノ!」
Happy birthday , 勝治
リュウセイ誕202477 七夕の日は天野河家にとって、一段と忙しくなる。なんせ同じ誕生日が三人もいるのだ。
唯一の例外でもある母親はせわしなく台所を歩きまわる。準備はある程度済ませてはいるが、最終的には当日に行動に移す。
普段なら息子に向かって手伝いをするようにと言うこともあるが、今用意しているご馳走は特別だ。
むしろ手を借りたくない案件ですらある。
ちなみに前日はリュウセイも大輝も友人のところに遊びに出ており、母親は計算通りに作業を進めることができて支度が捗ったとか。
「……ただいま」
「兄貴、おせーぞ!」
父親の電話で急遽日本に帰国することになった銀河はしぶしぶと実家に足を踏み入れるが、内心は満更でもない。
リュウセイも銀河の心情を理解しているのか、兄の表情は気にしていない。今のリュウセイは百戦錬磨のボーガーではなく、めったに会えない兄との邂逅を喜ぶ弟だった。
明日もどこかで駆けていくだろう。もしくは苦手な勉強に音を上げているかもしれない。それはそれとして、今日は等身大の子供として羽を休める。
地上を駆けまわる流星は燃え尽きることを知らない。
ロイド誕2024610「ロイドさーん!!」
リュウセイが勢いよくロイドの店に入る。続いて、勝治が姿を現した。ケンの姿は見えない。
勝治は町で一番おいしいと噂される、洋菓子店の箱を持っている。
「リュウセイクンに勝治クン、今日はどうしましたー?」
「……もしかして気が付いてないんですか?」
「ハイ?」
「リュウセーイ、勝治ー、持ってきたぞー!!」
ケンも合流する。ロイドが子供たちにおごることはあるが、逆のパターンは基本的にない。そこで、ロイドはようやく思い出した。彼は手をポンと叩く。
「ア、ワタシの誕生日でしたー」
「ロイドさんっていっつも忘れてるよな……」
「それが大人でーす」
「そんなもんか?」
「リュウセイくん、これ以上詮索するのはやめよう。という訳で、ぼくたちからの気持ちです」
「あ、あとうちの店の割引券も!!」
勝治はケーキの入った箱を、ケンは鞄から昇竜軒の割引券をロイドに差し出す。
ロイドは満面の笑みでそれらを受け取った。独り身の彼にとって、リュウセイたちの姿を追い続けるのは日々の楽しみのひとつである。
「Oh、美味しそうでーすねー!! ミンナで食べましょ。昇竜軒はまた今度お邪魔しますねー」
両親にも事情を話したのか、箱のなかにはリュウセイたちが三人そろっても手が出ないであろうホールケーキが入っていた。
ロイドひとりで食べるには、少しばかり量が多い。決して、食べきれない訳ではないが。
ロイドは早めに店を閉め、四人でケーキを食べる準備をはじめる。彼にとっては、子供たちに気にかけてもらえるだけでも嬉しい。
「(誕生日も悪くないでーすねー)」
――ハッピーバースデー、ロイドさん!!