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BleuCiel(別館)

気の赴くままに

【ふたプリMH】明日は来る【SS】

ふたりはプリキュアMH。本編後。
なぎさ、ほのか。
80年前の8月。グロテスクな描写はないです。



 明日は来る


「あづー」
「もう、なぎさったら……」
 雪城家で宿題をやろうと意気込んだなぎさの意気込みと集中力は夏の暑さとともに溶けた。一向に進まないページを見てほのかは苦笑する。
「涼しくなったらがんばるぞー」
 なぎさの両親は二人きりで旅行、弟の亮太もバドミントンのクラブの合宿で家にいない。ひとりでいてもダラダラしているだけだろうという親の心配もあり、雪城家に泊まることとなった。
 それを聞いた亮太は姉を大層羨ましがったが、合宿には勝てない。亮太はチームで貴重な戦力のひとりとなっていた。
 なぎさはお茶を飲んで縁側に座る。風鈴の音が涼を運ぶ。なぎさの宿題が進まない点を除いて、平和な一日だった。
 日が傾いてきた頃にさなえも含めて三人で食事をして、ほとんど宿題が進んでいなかったなぎさは半べそをかきながらも今日分のノルマを終わらせる。後回しにして何度も痛い目を見てきた。

「(……夢、かしら?)」
 ほのかは首を傾げる。奇妙な浮遊感のせいで居心地が悪い。闇と戦っていたときのがれきの山とも違う光景を観察しながら慎重に歩みを進める。
 服装がパジャマから私服に変わっているが、コミューンは身につけていない。
「(だったらいつかは覚めるよね)」
 建物はほとんどが木造建築だったのか、焼け焦げて崩れ落ちているものも多かった。建物によってはかろうじて原形をとどめていたり、鉄骨がむき出しになっている物もある。食器や子供が使うおもちゃらしき物、人が生活していたであろう痕跡も残されていた。
 ただ、生き物の気配が一切しないだけ。生き物がいない廃墟は静まり返る。かつてあったであろう活気はどこにもない。
 ほのかはこの光景に検討がついていた。ほのか以外の人がいないのが不気味ではあるが、救いでもある。現実ではなく夢だということを主張しているかのようだ。空は雲がひとつとない快晴でどこか異質だった。
「……えなーい……!」
「なぎさ……っ!」
 ほのかは声のしたほうに駆け出す。平静を装っていたがひとりでは心細かった。ほのかは砂利に足を取られそうになりながら懸命に走る。足音に反応したなぎさは振り返った。彼女も寝間着代わりのジャージではなく私服だ。
「ほのかー!」
 なぎさはほのかに抱きつく。なぎさもこの光景に勘づいていた。世界を巻き込んだ人間同士の戦い。その残証。生まれる時代がもっと早ければ味わっていたかもしれない地獄。
「会いたかったよー」
「私もよ。この夢、いつになったら覚めるのかしら」
「そんなことわたしに聞かれてもー。ほのかはこれからどうするの?」
 なぎさはほのかから離れようとしない。ほのかが姉でなぎさが甘えたがりの妹のようだった。
「ミップルとメップルを探すわ」
 妖精に一縷の望みをかける。昨日、ほのかの祖母がミップル(コミューンの姿)に触れたいと言ったので少しの間だけ祖母に手渡していたのだ。それがこの夢の原因かははっきりしない。
 ミップルが見た夢なのか、さなえが見た夢なのか、はたまた町が二人に夢を見せているのか。
 なぎさはほのかを信じる。なぎさはようやく離れて手を握った。ひとりぼっちではなく、ふたりぼっちになるために。それから二人は歩き始めた。
「ほのか、ちょっとだけ変なことを言っていい?」
「私も同じことを考えたことがあるから」
「やっぱり考えちゃうよね……」
 プリキュアとして必死になって守ってきた世界、しかし同じ人間の手で壊されることもある。彼女たちの身の回りではそんなことはないが、数十年前はそうはいかない。
 教科書の内容を覚えることは不得手ななぎさでも、学校の授業で触れたその件は深く考えさせられた。
「わたしたちがしてきたことってなんなんだろうって。ぜーんぶが闇に還れば……って光の使者失格だよね!」
 アハハ、と笑うなぎさはどこか痛々しい。彼女は茶化すように話を締めた。今までの行動と矛盾したように見えて筋は通っている。平和は解釈次第で形を変える。
「そんなことはない。だって私たちはプリキュアである前に人間でしょ?」
「ほのか……」
「昔の私だったらなぎさの意見に全否定してたかもしれない。でも、今なら分かるわ」
 曲がったことは許さない、今も昔もほのかは正義の味方であろうとする節がある。そんな彼女もなぎさをはじめ人と交流していくうちに、柔軟性も持つようになった。
 また他人とも歩み寄ろうとしたりときには距離感も考えるようになり、高嶺の花だったほのかはクラスになじむようになる。
 特になぎさの部活仲間であり友人でもある志穂や莉奈は、お互いに苗字で呼びつつもプライベートなことを相談したりされたりするような仲になった。
「……ありがと。こんな話みんなの前だと言いにくくて」
 光の園出身であり闇にひどい目に遭わされたメップルたち妖精やほかのプリキュアチームには口が裂けても言えない。かろうじて言えるのは同じチームであるひかりぐらいだろうか。
「そうね。否定はしないって言っちゃったけど、いざなぎさがそういうことをしたら全力で止めると思うし」
「わたしだって。でも正直、ほのかのそういうの想像できない」
「そう?」
 ほのかは首を傾げる。彼女としては可能性は限りなく低いが選択肢のひとつとしてゼロではない考えだった。こんな会話ができるのは、二人の置かれている場所の雰囲気に飲まれたからだろうか。
 ほのかは祖母に縁のある地であろう場所をめぐる。ここの地図や祖母の記憶を完全に把握している訳ではないので、祖母から聞いた話や想像で歩くしかない。空振りもしつつメップル、ミップルを探すと見慣れたシルエットが見えてきた。
 ずっとつないでいた手が解かれる。ふたりぼっちではなくなった。どこか張り詰めていた二人の空気が柔らかくなる。
「メップル!」
「ミップル!」
「遅いメポー!」
「だったらナビぐらしてよね!」
 再会してそうそうに喧嘩を始めるなぎさとメップル。その喧騒すらほのかとミップルに安心感を与える。賑やかな二人をほのかとミップルはほほ笑みながら見守った。
 役者は揃った。あとは夢から現実に戻るだけだ。
 妖精も現実ではないということは理解しているらしいが、帰り方までは分からないらしい。なぎさはメップルを抱く。
「夢だったらいつか起きるでしょ」
 なぎさはいつものペースを取り戻していた。メップルは不満そうな表情を浮かべながらもなぎさの腕の中で暴れるようなことはしなかった。
 完全な廃墟だったことが不幸中の幸いだったのかもしれない。あまりにも現実味のない、しかしプリキュアとしては馴染みのある状況だったから。
 ミップルはほのかのスカートを控えめに引っ張る。ほのかは優しい笑みを浮かべてミップルを腕の中に迎え入れた。
「わたしたちが揃えばどんな場所でも平気ね」
 まるでピクニックのような雰囲気だ。二人と二匹は急激な眠気に襲われた。瞼が下りる直前、人の気配がないはずの場所にたくさんの人がいたように見えた。
 簡素な服がほとんどで、なぎさたちの服装が浮いている状態だ。
 その人たちは汗を拭いながら明日に向かって手足を動かしていた。一方で俯いたままの人や、まるで怒りをぶつけるかのように力仕事をしている人もいる。さまざまな思いが人々の一挙一動に込められていた。
「「(ありがとうございます)」」
 声は出ない。二人は心のなかで礼を述べる。
 絶望的な状況で未来を切り開いてくれた人たちがいた。それがどんなに大変なことか、彼女たちもプリキュアとして闇と立ち向かい少しは理解しているつもりだ。
 パートナーがいたから、大好きなものがあったから、当たり前だと思っていた日常があったから、ふたりはプリキュアでいられた。
 彼女たちは夢から覚める。
「なぎさ、おはよう」
「おはよ……ほのか……」
 朝の陽ざしがほのかの部屋に降り注ぐ。屋根のおかげで最適な量の光が二人を包んだ。
 廃墟となった町をさまよった夢のあとだからなのか、いつもの景色が二人の目にはいつもより輝いて見えた。青空は町の景色に溶け込んでいる。



◆後書き◆
今年の八月六日はふたプリ。
以下今日という日によく分からないテンションで打ってる文。
さなえさんが恐らく自分の祖父母と同じ年代でちょっと考えされられる今日この頃。戦時中の話って身内でも(こそ)話に上がらないのあるある。自分の場合一緒に住んでた訳じゃないけど。ちょっと前に大伯母が話されてた内容も中々重かった…。
戦時中の映像って時々容赦ないの流れる時あるし、自分も知らない事いっぱいあるし、でもふたプリでさなえさんが見た光景はきっと誰かにとっての現実で、自分達も記録媒体を通じて見れる出来事って考えるのも立派な平和学習の一つじゃないかな何て思った。何が言いたいのかまとまんないやつ。
普段曇らせぐへへとか言ってる奴の台詞じゃねぇ



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