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BleuCiel(別館)

二次創作、時々一次創作置き場。イラストも?

【ブルードラゴン】スフォルツァンドの羽音【SS】

続きもの
アニメ版ブルードラゴン。二期数年後。
クルック、シュウ、ジーロ、ブーケ、マルマロ。



 3,スフォルツァンドの羽音


 封印の地に数基あるお墓は、年に数回ほど花束で埋まる。敵味方関わらず、その下で眠る者に捧げられたものだ。
 培われた溝は完全に埋まらないが、このときばかりは誰しもが敵意を抱かない。シュナイダーの墓標も、そのひとつだ。
 彼の上司であったロギは、年に数回シュナイダーに花束を供える。当時は時間との戦いもあり、振り返ることができなかった。殉職した彼に対して、せめてもの贖罪も含まれている。
 諸般の事情により墓標がない者に対しても、誰かが定期的に黙祷を捧げた。封印の地は、祈りの場としての側面も見いだす。
 クルックは封印の地の季節の移り変わりを、その目で見届けてきた。ときには花束を整理したり、枯れてしまったものは次の季節に備えて奇麗に掃除をする。
 世界は、常に変化していく。壊れてしまったものは修復され、新しく生まれ変わる。その過程で、取り残されたものも出てくる。封印の地は、良くも悪くも変わらない。取り残されたもののひとつだ。
 だからこそ、少女は通い続ける。よすがにすがり、自分自身の精神を安定させるために。無人となった村、《闇》と同化したもの、少しだけでも苦楽をともにした人たち、クルックの脳裏に焼きついて離れない。
 それらは悪夢となり、彼女を苛むこともある。彼女だけではない。仲間は傷を抱えながら、今を歩んでいる。

 ノイに指定された日、フェニックスとともにクルックは封印の地に降り立つ。普段この地を訪れるときとは、面持ちが違う。彼女の足取りは軽く、表情もどことなく晴れやかだ。
 大人の階段を上りはじめた少女は、昔のように黄色のリボンでポニーテールを結ぶ。彼女なりの覚悟の現れだった。あとは、自分の信じる道を突き進むだけだ。
 空から冷たい雨粒が落ちることもなく、太陽が地面を照らしつけることもない。心地のいい風が、彼女の頬をそっと撫でる。フェニックスの羽根も、温和な風になびく。
 クルックがあたりを見回しても、見知った仲間の姿は見えなかった。仲間のなかで自由に瞬間移動できるのは、クルックだけだ。彼女は反省する。どうもゾラのことになると、普段の思考回路はどこかへ行ってしまうらしい。
「(迎えに行ったほうが良かったのかな)」
 あの夢以来、クルックはシュウたちと連絡を取ることはなかった。彼女はフェニックスを見上げる。ゾラのおかげで出会い、そして《闇》を封印するために別れた《影》。
 フェニックスとの別れは、あまりにも突然だった。満足に会話することもできず、フェニックスたちは《闇》とともに消えた。
 再会したあとも目まぐるしく情勢が変化し、クルックがフェニックスとゆっくりと他愛のない会話をできるようになったのは、しばらくあとになってからだった。
 クルックは仲間のなかで覚醒が一番遅く、そして空白期間もあった。空白期間にいたっては、彼女のなかで感情がうまく処理しきれず、焦りや仲間に対して八つ当たりに近い妬みを抱くこともあった。
 この際、クルックはずっと気になっていたことをフェニックスにぶつける。今まで、彼女は怖くて聞けなかった。誰よりも近くにいる存在に自分自身のことを質問する。それは、とても勇気がいることだ。
「フェニックスはあたしの《影》になって退屈しなかった?」
『そんなことはないですよ。例え姿を現すことはなくても、私は貴女の《影》ですから』
「でも、フェニックスと一緒だった光の戦士はきっと戦い抜いたんでしょう? あたしの想像でしかないけど……」
 遠い昔に起きた戦いがどれだけ過酷だったかは、今となっては知る由もない。当時、フェニックスは別の影使いとともに戦っていた。今を生きるクルックが知っているのは、それぐらいでしかない。
 フェニックスもほかの《影》も、過去のことは一切話そうとしなかった。フェニックスは、優しく微笑む。違うからこそ、退屈することはない。
 クルックの心情の変化は、フェニックスにとって興味深いものだった。ネネを倒しても終わらない旅路、敵対勢力との交流、幼馴染との別れ。
 彼女が苦しみもがいてきたのを、フェニックスは一番近くで感じていた。シュウにもアンドロポフもかなわない、フェニックスだけの特等席で。いつからか、クルックは自分を責める癖がついていた。
『(あなたの人生は、あなただけのものなんですから)』
 《影》――特にブルードラゴンは、フェニックスにとってからかい甲斐のある相手だ。最近はブルードラゴンたちをからかう機会が極端に少なくて、少しばかり寂しいぐらいか。でも、それはクルックと組んでいるときの話だ。
 次の代では、どうなるのか分からない。種族によって差はあるが、影使いと《影》では基本的に時間の進み方が違う。
 フェニックスもゾラのように、多くは語らない性分だ。フェニックスは、己の半身でもあるクルックのために言葉を紡ぐ。
『それはそれ、これはこれ。人間にはさまざまな形の戦いがあるのでしょう? 私が比較することではありません』
「やっほ~クルック!」
 遠くから、ブーケのはつらつとした声が響く。
 フェニックスは、クルックの影にすっと戻る。その際に翼を彼女の頭上にかざしたのは、フェニックスなりに考えたクルックに対しての気遣いだった。
 クルックはくすぐったさとフェニックスの気遣いが嬉しくて、照れ笑いを浮かべる。クルックにとってゾラがお姉さんのような存在だとしたら、フェニックスは母親のような存在だろうか。
 青い影が徐々に近づき、しだいに竜の形となる。シュウを振り回し、振り回された気性の荒い青い竜。ブルードラゴンはシュウとともに運命さえも壊した、《影》のなかでも異質な存在だ。
 クルックはブーケたちに見えるように、全身を使って大袈裟に手を振る。ブルードラゴンの背には、ブーケとシュウが乗っていた。
 ひょっこりと、マルマロも顔をのぞかせる。ラーゴの村にいたマルマロはノイの提案に乗るため、数日前からシュウたちと合流していた。
「ブーケ、マルマロ! シュウとブルードラゴンもお疲れさま」
『フン、オレを乗り物代わりに使いやがって』
「(ふふ、なんだかんだ嫌いじゃないんだろうなぁ)」
 ブーケとマルマロは、ブルードラゴンの背から飛び降る。シュウも、自らの《影》の背から飛び降りた。
 運び屋となったブルードラゴンは、不満そうに捨て台詞を吐いて消える。断れば良かったのに――と、どこからかツッコミが聞こえてきたのは気のせいだろうか。
 シュウとクルックは笑い合い、お互いに軽口を言う。タタの村にいたときのことを引っ張り出したり、心配しているところを指摘し合った。
 遠慮なく物事を言う、年の近い姉弟のような二人の距離感。《闇》との戦いのあとに生じたわだかまりもすっかり解消され、幼馴染としての関係は続いている。
 クルックが黄色のリボンを結っているのなら、シュウは首に巻いている黄色のバンダナを赤色に変えていた。過去にやり残したことをするのだから、過去の自分も一緒に連れていく。そんな趣意が込められている。
 さすがに、あのときとまったく同じ服はもう持っていない。仮に持っていたとしても、成長した彼らにサイズが合うとは限らない。シュウとクルックは示し合わせた訳でもなく、自然と同じ思考回路になった。
 残るは一人。ブーケとマルマロは、入念にストレッチをする。さほど時間はかからず、ジーロが現れた。これで夢にいた人は、全員封印の地に集まる。
「……もう来てたのか」
「ジーロ遅いマロ~」
「それでもゾラの一番弟子だったの~?」
「ふん、勝手に言っとけ」
 マルマロとブーケは、一番遅くに来たジーロを煽る。ジーロは鼻で笑った。そんな煽りで逆上するほど、彼も子供ではない。シュウとクルックも、彼らの会話を止めようとはしない。
 ジーロはゾラと旅をしていた頃よりも、ずっとたくましくなった。ミノタウロスがそばにいなくても戦えるように、仲間のなかで鍛錬をもっとも積んでいたのは彼だ。
 心の余裕ができたジーロの視野は、ぐんと広がった。それは、彼の戦闘でも存分に活かされる。その実力は折り紙つきだ。
 彼は封印の地に来る最中に、シュウたちを背に乗せたブルードラゴンを目撃している。最後に到着したものの、ほかの仲間をさほど待たせていないことをこの場にいる皆が理解していた。
 そもそも、ノイは厳密に時間指定をしている訳ではない。
 どれほど過酷なものになるのか分からないなか、シュウたちの雰囲気は明るい。緊張感はあるが、それが過度なプレッシャーにつながっていない。
 人生何が起こるか、分からないものだ。突然の別れに涙した地に、今度は笑顔で集まることになるとは誰も思わなかった。ジーロをからかっていたブーケやマルマロも、彼をいじることをやめて雑談に切り替えている。
 かつてゾラに誘導されるようにたどり着いた地に、今度は自分の意志でこの地に来た。みんな、ゾラに言いたいことはごまんとある。
『お前たち、いつでも良いぞ』
 脳内に、ノイの言葉が直接響く。今回は夢のときのように、姿を現すつもりはないらしい。シュウたちは、お互いに顔を見合わせた。ゾラがいるであろう場所は、きっと徒歩では行けない。そんな場所に、ゾラがいる訳がない。
 誰かが号令をかけることもなく、クルックはフェニックスを召喚して能力を発動した。彼女は一瞬表情を歪ませるが、仲間に心配をかけさせまいとすぐに表情を戻す。
「(うぅ、思ったよりも堪える……)」
『(クルック、ほかの人にも手を貸してもらったほうが……)』
「(大丈夫。本番はこっからでしょ?)」
『(貴女がそう言うのなら。――ご武運を)』
 フェニックスは、仲間の前で平静を装うクルックを気にかける。フェニックスに対して筒抜けであることを知りながらも、彼女は強がった。彼女はノイが忠告していたことを、直接肌で感じ取る。それでも、彼女に迷いはない。
 残りのメンバーも、表情を引き締める。これから向かう空間がどんな場所なのか、この場にいる誰にも分からない。フェニックスの鳴き声とともに、シュウたちの姿は跡形もなく消え去った。
 荒廃した封印の地にいるのは、わずかに芽吹いた草花だけになる。瞬間移動をした際の風圧で、草花はまるでシュウたちの健闘を祈るかのようにしばらく揺れた。


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