アニメ版ブルードラゴン。二期後。
※
妄想設定有。
クルック視点。
クルック、アンドロポフ、シュウ、ブーケ。
イメソンは『壊レタ世界ノ歌』です。
嗚呼、無意味でも願う
「アンドロポフ、ちょっと出掛けてくるからお留守番よろしくね」
「分かった。あんまり無茶はするなよ」
「……えぇ」
フェニックスを呼んで、封印の地へとテレポートする。二度の大きな戦いが終わり、今度こそ争いのない世界に一歩近づくだろう。そうなってほしい。でも、身体の傷が癒えたアンドロポフは時折ロギさんのところに行く。アンドロポフ曰くあたしにばかり頼っていられないとのことだ。そんなの気にしていないのに。
「ゾラ、やっぱり分かんないよ……」
二度の大きな戦いの中心にはシュウがいた。ゾラ、あなたに会えたおかげでフェニックスと出会えた。でも、こんなにもシュウが遠くなるなんて思わなかった。一緒にいるのが当たり前だと思っていたのに、気がついたら空白の時間が出来ていた。ゾラのお墓はない。遺骨さえなく、唯一遺されたのは身に付けていたバンダナだけ。だから最期の場所で彼女に語りかける。
「あなたにとってあたしは何?」
両親がいないあたしにとって、シュウは心の支えと言っても過言ではなかった。アンドロポフはとても優しい。嫌いではないし、むしろ一緒にいると落ち着く。そもそもあたしがアンドロポフの優しさを利用しなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。
ロギさんの言葉は間違っていなかった。でも、あのときのあたしはゾラを、ゾラを信用するシュウを信じたかった。あのときのあたしにシュウを否定することは出来ない。それすらも計算のうちだったら……。ゾラは多くのことを語らない。そんな最年長の背中は頼もしかった。
「本当のゾラはどんな気持ちだったの?」
本当に利用するだけの存在だったのか、多少の情も含まれていたのか。今となっては知る術はない。ゾラに会うためにテレポートを試みたこともあるけれど、技は不発に終わった。
「ゾラ、答えてよっ!!」
どんなに叫んでも、ゾラの返事はない。あたしの声が虚しく響く。それが滑稽に思えて、今度は笑いが止まらい。何が悪で何が善なのかあたしにはもう分からない。野戦病院で怪我人の治療をしているときに、感謝されることがあった。でも、あたしはむしろ傷つけた側の人間だ。感謝される筋合いなんてないのに。
シュウとずっと一緒にいたのに、あたしはシュウみたいに強くなれなかった。アンドロポフの気持ちに縋って、戦いから逃げて、自ら籠の中の鳥になる。アンドロポフの療養に専念するようになってから野戦病院からも遠ざかっていた。戦いで身寄りを亡くした子供たちと、アンドロポフとの穏やかで平和な日常。その裏で起きていることには目をそらす。
「あたし、最低だよね。アンドロポフがこんなに想ってくれてるのに、シュウにはブーケがいるのに、やっぱりあの日々が忘れられないの」
何も知らず村で過ごし、世界の平和を脅かす敵に立ち向かった日々。後半はきっとゾラが仕組んだことだったけど、でも、あたしにとって大切な想い出だった。誰にも汚されることのない宝物。花を供える訳でもなく、ただここでゾラに問いかけるだけ。そんな無意味な時間を過ごす。あたしはフェニックスを呼んだ。二人でもう一箇所向かう。おそらくシュナイダーさんが命を落としたであろう場所に、アンドロポフの近況報告を兼ねて。
「フェニックスに会えたことは本当に嬉しいの。お母さんがいたらこんな感じなんだろうなって、あなたと一緒に戦えて安心した」
『わたしもあなたに会えて嬉しいです。いつも見守っていますよ』
「ありがとう」
いつかロギさんに言われたブルードラゴンの攻めとフェニックスの守りのコンビネーションは、磨けばきっとより強力になっただろう。シュナイダーさんに黙祷を捧げわあたしたちはテレポートでアンドロポフの待つ家に戻る。影も上位生命体みたいに人間のような姿に擬態出来たら良いのに。そうしたらアンドロポフとフェニックスと、アンドロポフの影とも一緒に暮らせる。
『わたしはあなたのことを分かっても真に理解は出来ません。ですが、寄り添うことなら出来ます』
消える間際、フェニックスが声をかけてくれた。きっと影にとっては、戦うことが当たり前だったんだろうな。直接攻撃したり、攻撃を防ぐことがすべてじゃない。変身能力だって、場をかき乱すには充分な効力を発揮する。
「……ただいまー」
「「「おかえり」」」
「嘘」
馴染みのある声が聞こえてきた。慌ててリビングに行くと、シュウとブーケが上がっていた。会いたくて会いたくない人が目の前にいる。あたしは立ち尽くす。シュウが椅子から立ち上がった。あたしたちの家、そんなに椅子あったっけ? 二人ぐらいなら予備の椅子があるか。って、今はそんなこと考えている場合じゃない。
「クルック、悪いけどちょっと付き合ってくれ」
「え、えぇ!?」
「……行ってこい」
アンドロポフが渋い顔で呟く。ブーケはあたしに向けてウインクした。アンドロポフとブーケ、どんな会話をするのだろう。あまり想像出来ない。ブーケが頑張って会話をしようと努力する図が容易に想像出来て、なんだか微笑ましい。子供扱いしていたシュウの横顔が凛々しく見えるのは、あたしの気のせいだろうか。こうしてあたしはまた外に出ることになった。
「さっき、封印の地に行ってたのか?」
あたしは俯く。手が震える。大き過ぎる過ちを犯したあの地。シュウならきっとロギさんの言葉は一切受け入れなかっただろう。真っ直ぐな人だから、彼の意見は一蹴して気合いで脱出したかもしれない。……ロギの言葉であそこまで疑心暗鬼になるのはあたしぐらいだろう。
「アンドロポフから聞いたの?」
「あ、あぁ。予想って言ってたけど当たりみたいだな」
なるべく顔には出さないようにしていたのになぁ。アンドロポフはあたしのことをよく見ている。さすがにフェニックスを出すときに何かしら勘づかれた? その道のプロは違う。今更嘘をつくまでのことでもないし、あたしは素直に頷いた。シュウに背を向ける。
「ずっと考えてたんだ。もしあのときみんなと合流しなければ、苦しむ人はもっと減ったかもしれない」
シュウの表情は分からない。ずっと抱えているあたしの後悔。野戦病院にいるとき何度心のなかで懺悔しただろう。壊れることも許されない、そんな生き地獄。
「今度何かあったらフェニックスでテレポートして、みんなを助けて、それで、」
「駄目だ!!」
シュウはあたしを抱きしめる。最後まで言わしてくれなかった。フェニックスとの技は負荷が大きいらしく、頻繁に倒れていた。初めて影を発動したときは、シュウがいなければ眠り続けていたのかもしれない。敵の攻撃を一手に引き受けたり、瞬間移動していたらそうなるか。シュウは震えている。そんなことされたら死ぬに死に切れないじゃない。
「シュウ、狡い」
「オレが言えたことじゃないし、もっと苦しむことになるかもしれないけど、けど、クルックには生きてほしい。クルックがそうならないようにオレもっと頑張るからさ、頼む……」
「……分かってる。でも、約束は出来ない」
* * *
『残念です、ブルードラゴン』
『フンッ、サポートなしでもなんとかなる』
『……わたしは、あなたとの戦闘が好きです。でも、クルックは戦いを好まない』
『ずいぶん前は散々暴れてたのにな』
『影使いと言えど、人間ですから』